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「そうですよ、女の人に声をかけることが多いけど、こういうことだってあります。だから、僕と話しませんか?」
こっちまで彼のように不思議と穏やかな口調になる。
そうしてさっきまで1人でいたところに今度は2人で座る。
「名前、教えて貰えますか?俺は涼介。山田涼介って言います。」
「俺は、慧。」
彼が言わなかった苗字は、なぜか聞いてはいけないような気がした。
「敬語、崩しましょうか。」
「ケイゴ?」
「あ、敬語か。涼介さんが良ければ。」
一瞬考えるような素振りをしたけど、すぐに承諾してくれる。
ナンパを知らないことも、苗字を言わないことも、敬語の意味を確かめることも、全て違和感を感じることのはずなのに、恐ろしいほどに感じなかった。
彼の纏う雰囲気は、違和感を消し去ってしまう。
「慧、って呼んでもいいかな。俺はことも、“涼介さん“じゃなくて涼介って呼んで?」
と言うと、
「わかった。俺のこと、はじめて呼んでくれた人だよ。」
なんてわけのわからないことを言われるけど、それさえも美しく感じてしまう。
「慧は、どこから来たの?」
「海から。俺の事より、涼介のこと聞きたいな。」
海?海外言っていたのだろうか。分からないけど、それで良かった。
「俺は、ここから30分くらいの所に住んでるんだ。今日はちょっと色々あって、ここに来た。」
「へえ、海まで来る時は失恋した時だって、言ってた。」
彼は、本当に人魚姫なんじゃないか。
俺をからかうために言っているんじゃない。真剣に、純粋に気になっているんだ。
「うん、失恋した。」
「…なんで?」
少し黙ったあと、彼はまた真っ直ぐな視線を向けてきた。
なんて言ったらいいんだろうか。
そうか、彼は人形なんだ。だから彼に言ったって、なにも怖いことはない。
「俺の話、聞いてくれないかな。」
もしかしたら、人魚の君には分からないかもしれないけど。
「うん。」
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作者名:らず | 作成日時:2020年6月30日 0時