1日目.出会い ページ1
「はあ…」
大きくため息をつく
何となく車を走らせていると、いつの間にか海に来ていた
別に海なんて好きじゃないけど、白い砂浜と青い海を見ると心が落ち着くような気がする
なぜ俺がこんな気持ちになっているのか
数時間前の事
「ごめん、別れよう」
彼女から突然言い渡された言葉
「涼介はすごく良い彼氏だし、かっこいい
でもね…」
追う気力なんて起きない
俺には、恋人運がないのだろうか
そう思いながら海を見ると、誰かが海水が届かないギリギリのところに立っていた。
髪はふわっとしていて少し長く、細身で、服は上下淡い青色。なぜか海とリンクするような色だった。
彼女も海を見ているのか、と思ったが、ふと砂浜に目をやった時異変に気がついた。
「なんであの人、靴脱いでるんだ?」
今から考えれば、少し入って見たかっただけだという解釈もできる。
ただその時は、自分の気持ちとその人の儚さが相まって、海に身を沈めようとしているかのように見えてしまったのだ。
助けなくては。
その思いだけで走りづらい砂浜を必死に走った。
「あのっ!」
至近距離で大きい声を出したからか、少し動く肩。
そして、俺の方を振り返った。
「俺、ですか…?」
「え…」
「え…?」
俺、という言葉を使うタイプの女性なのか、という解釈は出来なかった。
それに、白い肌、タレ目な二重の目、ふっくらした唇。
“俺”という一人称は似つかわしく無いように思えた。
そこまで考えてふと我にかえる。
これは、ナンパだと思われるのでは?怪しい奴だと思われたらどうしよう。早く弁明しなければ。なんて言う?女性かと思いました、なんて言えるか?いやいや、そもそもまだ男だと決まったわけじゃない。
「なにか、考え事ですか?」
そう言ってふわっと笑うその姿は、美しく、儚げだった。
「あ、いや、その、とりあえず、あっちに座りませんか?」
とにかくここより海からもっと離れた場所がいいと思った。
自分のメンツより人の命の方が何倍も大切だ。
「人間って、こういうのが普通なんですね。女の人に男の人が誘うものだと思っていたのですが、違うんだ。お話しようと誘ってるんでしょうか。」
「は?」
人間って、あんたも人間じゃないか。そう思ったのに、なぜか自然と受け入れらてしまった。そして、彼のその姿は地上に出た世間知らずの人魚姫のようだと思った。
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作者名:らず | 作成日時:2020年6月30日 0時