久遠監督と私と神童 ページ47
貴「これだけ、買っておけば大丈夫だよね」
一人でスーパーで買った物が入った手提げ袋を肩に掛けながら、私は家へと帰ろうと歩く。
夏菜子が野菜炒めを食べたいっていうから、少し奮発しちゃった。
貴「フェイに怒られるだろうな:::ん?」
私は、通り過ぎようとしていた雷門中の校門にいる人影を見つけて、その人影が誰なのかを見た。
久遠監督だ。
貴「:::」
そうだった。久遠監督は栄都学園との練習試合で監督をやめさせられるんだったっけ。
私は慎重な面持ちで久遠監督の方へ歩み寄る。
久「:::丘橋か」
貴「監督、お疲れ様です」
久「お前は、試合にはいなかったけどな」
貴「アハハハ:::ごもっとも」
久遠監督の言葉に、私は苦笑いをしながら同意する。
でも、久遠監督は私に対して何も探っては来なかった。フィフスセクターである私に、何も疑いを持たないはずはないのに。
久「それはそうだ」
貴「え?」
久「全部吐き出せと言っても、お前は絶対に吐かないだろ?」
久遠監督の言葉に、私は小さく微笑む。
会ってほんの数日しか立っていないのに、私の事を知るかのように久遠監督は話す。
まるで、前から私の事を知っていたかのように。
久「それに、俺はお前は単なるフィフスセクターだと思っていない。きっと理由があるだろうと感じている。それに:::」
貴「:::それに?」
久「俺の教え子だった『あいつ』がお前を守ってくれと言っていたから「監督!」」
すると、後ろから久遠監督を呼ぶ声が聞こえる。後ろを振り向けば、それは神童だった。
私を無視し、走っていた神童は息を整えながら久遠監督に向かって頭を下げる。
神「すいませんでした!俺がシュートを決めたばっかりに!」
きっと神童は、自分のせいで久遠監督がやめてしまったのだと思っているのだろう。
でも、それは違う。
久「それは違う。俺の役目が終わっただけだ」
神「え?」
久「それに神童、お前はシュートを打った時、何かを感じたはずだ」
神「何かを?」
その気持ちを忘れるな、そう言って久遠監督は神童から私に視線を移す。私は手提げ袋をもう一度肩に掛け直して久遠監督と目を合わせた。
貴「久遠監督:::」
久「ん?」
貴「久遠監督が言った『あいつ』とは、私には分かりませんが:::ありがとうございます」
いや、私は薄々勘付いているはずだ。
でもそれを私は、気付かないふりをしているだけ:::。
久「そうか:::」
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作者名:keito | 作成日時:2015年5月18日 0時