暗殺教室～男装少女はマフィアのボス？～短編集 (ページ1)

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君と紫陽花と　ページ1

貴「：：：」

降りしきる雨の中、君はずぶ濡れの俺に傘を差し出した。俺が君を見れば君はにっこりと笑う。

渚「風邪引くよ、尭」
貴「：：：渚、ありがとう」

俺は君の名前を呼んで礼を言ってから傘の中へと入る。そして俺らは歩き出した。隣には傘の柄を持ちながら歩く君。俺より少し背が高い君は俺が濡れないように、傘を俺の方へと傾けていた。

渚「あ」

と言って君は鞄から君の髪の色と同じ水色のタオルを取り出した。それを俺の頭にすっぽり包むように被せる。そうして、

渚「ずぶ濡れよりはマシでしょ？」

と、俺の頭を２度、３度と撫でる。別に良いけど、この頃撫でられることが多い気がする。

貴「あ～、ありが：：とう？」
渚「何故に疑問形？」

そうして、俺は水色のタオルの端と端を持って濡れている顔を拭いてみる。柔らかい、しかも柔軟剤の良い匂いがする。

貴「良い匂い～」
渚「うん、良い柔軟剤を使ってるからね。良かったよ、タオル持ってて」

君を見れば俺に向かって優しく微笑んでいる。さっきからずっと微笑んでるけど：：：何でだろう。

貴「ずっと微笑んでるけど、どうしたの？」
渚「：：：」

その言葉にだまる君。しまった、聞いてはいけない事だったかな：：：。けど、別に聞いてはいけないことでもなかったんだけど：：：。

けれど君は頬を赤くしてモジモジしている。少し可愛いなと思っていると、俺の隣に咲いていた紫陽花を指差した。

渚「この紫陽花、綺麗だなって思って：：：」

俺はその言葉を聞いた途端ブッと笑ってしまう。

貴「アハハ！何それ！」
渚「ちょ、笑わなくても：：：」

まさかそんな返答が帰って来るとは予想していなかった俺は、笑いながら渚に言う。

貴「紫陽花を見たかったのなら俺にそう言えばよかったのに！」
渚「：：：いや、本当は」

貴「ん、本当は？」

覗き込めばさっきよりも顔を赤くする君。俺はそんな君を見てあきれたようにフッーと息を吐く。

貴「言えないなら、言わなくていいよ渚」
渚「いや、ちが！」

貴「じゃあ何？」
渚「：：：この、紫陽花が」

渚はそう言って紫陽花を触る。

渚「この紫陽花と尭が似てるなって思って！」
貴「：：：」

君の言葉はいつも端的で短いけど、そんな君の言葉も俺は嬉しかった。

貴「そう、ありがとう」
渚「うん！(本当は水にしたたっている尭が可愛かったなんて言えない！)」

二人が微笑み合う傍らでひっそりと紫陽花は咲いていた。