一倉 颯との出会い〜３〜 ページ7
「私、介護福祉士をしておりまして、認知症の利用者様を何人も見てきていますが…徘徊をしている方の動きと良く似ていらしたので「そんな…」あ、あの！間違いの可能性のありますし！今日、お会いしたばかりなので決めつけるのは良くなかったですね。すみません」
医者でもないのに、しかも赤の他人が自分の家族を『認知症』だと言うのはひどい話だ。私は、娘さんからの怒りをもらう事は当然だと感じて頭を下げると、
「やっぱり、そうだったのね。前にもこういう事があったのよ。２回ね」
起こっている訳ではなかった。けれど、悲しい声に私は頭を上げた。
「……え？」
「お母さん、いつの間にか良く昔の事を話すようになったから少し不安を感じていたのだけれど…」
娘さんは「貴方のおかげで不安が消えたわ。ありがとう」と言ってくれた。お礼を言われるような事はしていないけれど。娘さんの顔は少しすっきりしているように見えた。
「いいえ、赤の他人が口を出すような事ではありませんでした。すみません」
「良いのよ、貴方のおかげで分かった事はあるし。お母さんをここまで送り届けてくれただけで優しい人だって分かるから」
「貴方もね」と一倉さんの方に視線を向ける娘さん。一倉さんは、少し顔を赤くしながら頭を下げた。
「本当にありがとう…これあげるわ」
山田さんが私と一倉さんに飴玉を差し出す。一倉さんは慌てて、
「い、いえ。頂く訳には！」
と、言う。私はじっと一倉さんを見てからねねさんの手から飴玉を２つ手に取った。
「ありがとうございます、ねねさん。有難く受け取らせて頂きます」
ねねさんは……嬉しそうに微笑んでいた。
―――――――――――――
山田さんと別れて、俺達は帰路につく。どうやら、同じ方向という事で一緒に帰る事にした。
「ありがとう」
「え？」
「君がいてくれなかったら、俺はお祖母さんと一緒に迷子になっていたかもしれないからお礼を」
「まあ、あのままあそこにいたら二人で事故に合っていてもおかしくない所にいましたからね」
原付を引きながら少年は優しい笑みで図星を突く。俺は何も言えず口を閉じた。すると、少年が思い出したように俺に質問をする。
「……そういえば、一つ聞きたい事があるんですが良いですか？」
「あ、うん。どうぞ」
少年はリュックからがさごそと何かを取り出す。それは運転免許所だった。
「もしかしたらかもしれないけど……一倉君、大学生？」
「え？」
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作者名：keito | 作成日時：2023年5月30日 22時
