一倉 颯との出会い〜１〜 ページ5
「お疲れ様です」
私は休憩室の自分の荷物を持ち、帰り支度をする。すると、
「あ、六波羅さん！秋山さんのオムツのサイズ変えたけどどうだった？」
同じ仕事仲間の山口さんが私に相談をしに来た。「ピッタリでしたよ」と言うと山口さんは「なら、そのサイズに変更でOKね」と椅子に座る。
私はその姿を横目に見ながらその場から離れて行った。
「…眠い」
社会人である私が働いているのは特別養護老人施設。そう、介護士をしている。今日は夜勤明けで眠たい目を擦りながら帰り支度をしていた。
将来の夢が無かった私は、母親が勤めていた介護という仕事に就いた。
志していた訳ではなく、ただ、中学生の時の職場実習で働いた時に少し興味を持った…ただそれだけだ。
就活をする時も普通の会社を受けていたが、簡単に受かる事はなく…就活が嫌になって介護にしたというぐらいだ。これを志している人に言ったら怒られてしまいそうだけど。
「よし、これで良いか」
帰って面倒臭くなる前に、昼食プラス自炊用の食材を買って行く。少し重たくなったリュックを背負いながらヘルメットを被り、原付を発進させた。
少しした後、踏切の前に付き、私はハンドルから手を放して姿勢を正す。そろそろ、体がバキバキしてきたから整体に行こうかな。
そんな事を考えていた時だった。
「お、お祖母さん大丈夫ですか？」
「ん？」
後ろから声が聞こえて、私はバックミラーを少し動かして対象を見つける。
杖をついているお祖母さんに話しかけている１人の青年がいた。家族…ではなさそうだな。お祖母さんって言っているし。
迷子になっているのだろうか？青年は無視する事も出来ただろうに、彼は少し慌てながらお祖母さんに一生懸命に話しかけていた。ずっと、彼はお祖母さんに寄り添っている。
「……」
遮断機が上がると同時に、私は原付をＵターンさせて彼らへと近づいた。
―――――――――――――――
どうしよう、話しかけたのはいいけれど…。
「私の家がこの辺にあるのだけれど…平屋で」
「ひ、平屋？」
迷子になっていたお祖母さんに声を掛けたのだが、家を探しているらしい。俺の実家は地方なので詳しくない。
お祖母さんの話に四苦八苦していると、近づいてきたのだろうか？少し後ろから声を掛けられた。
「こんにちは」
後ろを振り向くとそこには、
「何かあれば自分もお手伝いさせて下さい」
ヘルメットをした顔が見えない『少年』が立っていた。
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作者名：keito | 作成日時：2023年5月30日 22時
