優しい思い出〜3〜 ページ4
迷子の放送から、5分後。私の家族とそうま君のお兄さんが心配した顔で迎えに来てくれた。
そうま君はお兄さんを見ると、嬉しそうにお兄さんに抱き着く。
二人の抱擁に笑みを浮かべていると、お兄さんはそうま君を抱きながら、
「ありがとう、楓ちゃん。蒼真を助けてくれて」
優しい笑みを浮かべるお兄さんに私は首を横に振った。
「私も少し寂しかったんです…けど、そうま君が一緒にいてくれたので楽しかったです」
そう言って笑みを浮かべると、お兄さんは「そうか」と私の頭を撫でてくれた。楽しいひと時だった。
そして何故か、私達は一緒に遊ぶ事になる。
何故って?どうやら、そうま君が私と離れたくないと駄々を捏ねているらしくお兄さんが苦笑いを浮かべていた。
父と母に話をすると嬉しそうに承諾してくれた。
とても楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶりかもしれない。私の心に差していた闇を彼は無邪気に救ってくれた気がした。
夕方、私達は別れる事に……もちろんそうま君は駄々を捏ねたが一緒に帰る訳にもいかなくて……私は少し悩んだ後、泣きそうになっているそうま君に小指を差し出した。
「じゃあ、約束」
「……え?」
「また、会えるっていう約束しよう?」
そうま君は嬉しそうに小指を差し出してくれた。
「「指切りげんまん、嘘付いたら針千本の〜ます!指切った!!」」
―――――――――――――――――
あれから、私は25歳になった。
実家から出て、一人暮らしを始めてから約5年。
頭が良くも、悪くもなく、運動神経が言い訳でも、悪い訳でもなく、モテる事もなく、彼氏が出来る事もなく、夢を追いかける事もなく、私は相変わらずドジのままだ。
「よいしょ…」
そうま君とは14年経った今、約束を交わしたあの日から会っていない。偶然、どこかで会えたらなんて思いを馳せる。
今は、都内のマンションから仕事場に原付に乗りながら通勤をする。自転車置き場に来てヘルメットを被り、
「……ん、あれ?」
鍵穴に突っ込もうとすると、
「何で?何で入らな…」
手元にある鍵が原付の鍵より少し大きい事に気付く。自転車から降りて来た近所の人が私を見てフフッと笑う。
「それ。マンションの鍵ですよ?」
「!……す、すみません」
教えてくれた人に頭を下げると、「良いのよ、今の可愛かったし」と笑みを浮かべながらマンションの方へと戻って行く。
「……はあ」
ま、怒ってはいなかったから良しとするか!
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作者名:keito | 作成日時:2023年5月30日 22時