優しい思い出〜1〜 ページ2
小さい頃、いや…正確に言えば11歳の頃。私は遊園地のこぐまランドで迷子になっていた。
「……」
メリーゴーランドを興味津々に見ていたら、父と母と弟と離れてしまったのだ。この時の私は、泣く事もなく、慌てる事もなく、ただただ立っていた。
見渡しても見覚えのある姿は見えない。
「どうしよう…迷子センターに行った方が良いのかな」
5、6歳位だったら必死で泣きながら駆け回る所だが、11歳というとある程度物を分かっている。
「…よし」
私は少し考えてから、迷子センターに行く事を決めた。
「えっと…迷子センターはどこ「ひっく…うぅ…」?」
迷子センターへ行こうとした時、泣くのを我慢しているが、我慢しきれなくて涙目になっている5,6歳の男の子が立っていた。
「……」
私と同じ迷子だった男の子。とても不安だろう。私は男の子に近づいて目線を合わせる為にしゃがんだ。
「君も迷子な…」
話しかけると、男の子はハッとした顔をして私に思いっきり抱き着く。
「のおお!?」
まさか、抱き着かれると思わなかった私は石のように固まり、どうしようかとパニックになった。
「え?ちょっ!ちょっとま!「お兄ちゃ…お兄ちゃんが…」お兄ちゃん?」
男の子の顔は見えないが、肩を震わせながら泣く声。いきなりいなくなったお兄ちゃんに、知らない人達が行き交う遊園地。
子供にとっては恐怖にしかないはずだ。私自身も少し不安だったけど男の子を安心させる為に、男の子を抱きしめ返して頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だよ。お兄ちゃんと一緒に来てたの?」
肩越しに頷く男の子。私は体を離して手を握り、にっこりと笑う。
「ちなみに、私も家族と離れて迷子なんだ」
「お姉ちゃんも…?」
すごい恥ずかしかったな…あの時。けれど、男の子は私をからかう事もなく「そっか…」と悲しい顔をしていた。
優しい子だな〜と思いながら少年に提案をする。
「ここの近くに迷子センターがあるから一緒に行く?」
「お姉ちゃんも…来てくれる?」
「うん、ここにいるよりは良いでしょ?」
男の子は何も言わずにゆっくりと頷いた。私を信じてくれたのか、男の子は私の腕に抱き着く。
「お姉ちゃんが一緒なら……大丈夫」
「!……そっか、じゃあ私と手を繋いで行く?」
「うん!」
泣き顔だった少年は、私が差し出した手を握り返し笑顔を浮かべる。私は少年を導く形で迷子センターへと歩みを進めたのだった。
7人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:keito | 作成日時:2023年5月30日 22時