Eight wings ページ8
「いらっしゃい。……きっくんだいぶ顔が変わったねぇ。今すぐやろうか」
「え、俺の顔変わったの？」
「だいぶ……な。妖の影響をモロに受けてる」
私の最後の一言を聞いたきっくんは一瞬複雑な顔をしてすぐにそんな表情をしたそぶりもなく笑顔に戻して
「そっか！うん……、すぐにやってよ。心の準備はしてきたからさ」
と言った。その顔は笑顔でいてどこか憂いを帯びていた。
彼に笑顔以外の表情があるのを初めてみた。
なにせ帰り際ですら表情を崩さないでずっと笑顔なものだから泣きたいわけじゃあないのにこちらが泣きそうになった。
「そしたら説明をするね」
そう言ってかけていたメガネを外し、徐に机の上に置いたFB。
普段はなんとも思わないようなその仕草には心做しか緊張が含まれているような気がして思わず固唾を呑んだ。
いつの間にか全員の息遣いが聞こえるほどに研ぎ澄まされた聴覚はFBの声を捉えた。
「今からやるのは、いわゆるお祓い。いくらその鴉が神に近しい存在だったとしても憑いているというのは同じだからね」
「もし、それが失敗したらどうなるの？」
「君は……。そのまま誰にも認識されなくなって他の妖たちの頂点になる」
いわゆる神だ。
わかりやすく顔を歪めて下を向いたきっくんにFBが大きな声で質問を投げかける。
選んでほしい。
君は常に人と共に生きる人間か、その大きな翼を以って妖の頂点に君臨するか。
どっちの人生を生きたいんだ
「そんなのもちろん……。人間として生きたいに決まってるじゃん！」
きっくんの叫びは心の奥底から溢れ出しているように思えた。
それに反応するかのように淡く光り始めた部屋。
その光はだんだん強さを増し、ついに部屋全体を包んだ。
その時きっくんの背中に見えていた翼は白に変化し、ついに見えなくなった。
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作者名：葵巳 | 作成日時：2018年10月25日 23時
