商品ではなく : 月詠 ページ43
日「え、今晩…！？」
四「ああ。明日からまた、
仕事で来れなくなる。
屋敷の方は既に手筈が整ってるのでな。
このまま、連れ行く。
Aは今荷物をまとめに行ってる」
日「か、かしこまりました…」
月「……」
四「わかっておる」
Aに話を済ませたと、
部屋を出て来た四辻さまは
わっちらに少し焦りながら話した。
唐突な身請け、そして別れ。
こちら側からは何も言えぬ状況ではあるが、
複雑な想いを隠せずに俯くと、
四辻さまは優しく囁いた。
四「主らがAを家族のように想い、
大切にして来たことなどわかっておる。
落ち着いたら、挨拶に来よう。
まだ先の話にはなるやも知れぬが、
式にももちろん、出席して欲しい。
何。私の会社は、私が作り上げたモノ。
旧びた考えの親など居はせんから、
安心して、今後も良くしておくれ」
日「四辻さま…。ご理解、そして
お気遣い、誠に感謝いたします」
四「こちらこそだ。
この身請けを受け入れて貰い、感謝する」
四辻さまなら、安心じゃ。
本妻にすることも間違いない。
これまで、数人身請けに出しているが
鳳仙の時はその後、妾になり
歳を取ると捨てられた、などよく聞いた。
故に身請け先を品定めする必要性が生まれた。
彼女らは商品ではなく、家族じゃから。
四「……、月詠殿」
月「…っ！」
思考を巡らせていると、
突然名を呼ばれ、慌てて顔を上げる。
眼が合った、瞬間、
まるで、不安に思う気持ちを
見透かされたように
眼の奥の鋭さが光った。
四「Aを大事に想っている其方の想い、
しかと受け取ったよ」
見間違いであったか、
鋭光は一瞬で消え
いつもの温かな眼で微笑んでいた。
月「…、感謝いたします」
ぱたぱた…
「お待たせしました！」
月「A…！」
大きな鞄に羽織りを肩に掛け、
Aが小走りで四辻さまの隣に並ぶ。
日「…Aさん、今話しててね、
突然なことだけど、落ち着いたら！
いつでも遊びに来てね」
「…日輪さん。…はいっ！」
月「わっちも晴太も待っておる」
「晴ちゃんにも…皆様にも
朝、よろしくお伝えください…」
月「ああ、わかっちょる」
日「四辻さま。
楼主、日輪からお伝え致します。
何卒、このAを
よろしくお願い申し上げます」
四「…承った」
真剣な顔つきで深々と
頭を下げる日輪に続き、
わっちも頭を下げる。
駆けて来たAへの、あの笑顔で確信した。
四辻さまなら、大丈夫じゃ。
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作者名：美雨 | 作成日時：2019年2月27日 23時
