この先の ページ41
「…身請け」
突然のことに、
わたしの脳は追い付かず
何度も呟き、繰り返す。
月「わっちらも主がおらぬ状態で
話を進めたくはなかったんじゃが
四辻さまが…とても真剣で…」
日「勝手に決められないと伝えたわ。
だけど、通常の身請け額の
5倍を出すと言って話を聞かなくて、」
「5倍…っ!?」
月「主が戸惑うのも分かる。
…じゃが、、じゃがな、わっちらも
時間をもらってよく考えたのじゃ。
四辻さま程、身請け先に相応しい人は居はせん」
日「お優しいし、お勤めも立派。
何より、本当にあなたを想っているわ。
四辻さまの家に入れば
変わらず、かぶき町で暮らせるし
もう何も気にすることなく、
好きに出掛けることが出来るのよ。
身請け額がどうのの話ではないの。
あなたのこの先の人生を考えて欲しいのよ」
「…この先の、人生」
そんなもの、
ただの一度だって、
考えたことがあったかしら。
一番古い記憶でさえ、
わたしは知らぬ遊女にあやされ
禿となっていた記憶だ。
ただ、永遠とこの生き様が続いていく。
そんな風にしか考えたことはなかった。
故に、自身のこの先の人生を
考えようなど望みもしなかった。
日「そうよ…」
まるで、わたしの思考を読み取ったような
日輪さんの言葉にはっと、顔を上げる。
日輪さんは太陽のような微笑みで
わたしを見つめていた。
日「選べるのよ。Aさん。
あなたが選ぶことが出来る。
それが、あなたの人生なのよ」
「わたしの…?……人生」
今になって、
晴ちゃんが言っていたことを
理解するだなんて。
わたしのことを、
こんなに真剣に
考えて下さっていた人が
いただなんて。
月「四辻さまでなかったら、
Aに話す前にわっちらが断っていた。
警察の四辻さまへの嫌疑も
落ち着いたようじゃ。
良きタイミングなのではと、わっちは思う」
月詠さんが、今までに見たこともない程
優しく微笑んで見せる。
それが、ほんとに胸を締め付けるのだ。
ふたりの想いを知って、
もちろん、ここ吉原のことを考えても
わたし自身のことを考えてみても
それから、
遊女と客という、
利用し合う立場ではなく
ひとりの人として
友達に逢えるようになると
考えてみても
「…!」
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作者名:美雨 | 作成日時:2019年2月27日 23時