不器用？ ページ8
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今日は雨が降りそうだったから珍しく部屋に篭っていた時、扉の向こうからドスン、という音が聞こえてきた。
扉を開けると、そこには転んだであろうセレナの姿が目に入った。
彼女はずっと「大丈夫です」「平気です」しか言わなくて、俺が立ってと言うまで捻ったことに気づかなかったみたい。それでさえ、俺はキュンとする。
「え…………？？」
「だから、手当てするから部屋来てって」
信じられない、というような表情を浮かべるセレナの体を強引に姫抱きして、ベッドに座らせる。運ぶ際に困惑気味の声を出していたが、そんなのお構い無し。
というか、セレナ、超軽かった。
今度、採れたての野菜を食べさせてあげようかな。
………とは何度も思っているが、実際に行動に移すとなると、勇気がいる。
せめて、表に出せる分だけ優しくしようと努力している。
「足見せて」
「……はい」
躊躇いがちに出された足は、やはり細くて白い。大ちゃん辺りが好きそう。………実を言うと俺も好き。
少し触れただけでも痛そうにするから、なるべく痛くないように包帯を巻く。
「これで大丈夫かも」
「ありがとうございます」
「…………………別に」
あまり見たことのない彼女の笑顔を直で見て、息が詰まる。
可愛い。けど俺らが素直になれないせいで、彼女の可愛い笑顔を見ることも出来ないんだ。まあそんなの、自業自得としか言い様がない。
彼女を見続けていたら知らないうちに手を出してしまいそうなので、セレナを部屋まで送ることにする。ちょっとずつでも優しくするのに慣れていければいいな、なんて。
「…足怪我してるんだから、無理しないでよ」
「えっ」
「じゃあ戻るから」
「あ、あの、らんらんさん」
「………なに」
「手当て、本当にありがとうございました」
俺は彼女に背を向けながら歩く。
ここで彼女の顔を見てしまったら、俺の抑えが効かなくなりそうだった。ほんとはセレナが大好きだって、バレそうだった。
嘘偽りなくセレナを甘く愛したら、俺は彼女を独り占めしたくなる。
「(愛したいけど、今はまだ我慢かな)」
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作者名：かえち
| 作成日時：2019年11月3日 18時
