不器用 ページ5
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手にさらに力を込めて、声を発する。少し震えてしまった気もするが、シャオロンさんなら気づかないだろう。
ショッピは、気づくと思う。
ちら、と様子を伺うと、先程までとは違い、シャオロンさんは肩の力を抜いて安堵していた。
シャオロンさんのこんな表情、初めて見たかもしれない。
「よかったぁ………って何言っとるん、俺」
「ホンマですよ。頭大丈夫っすか?」
「ショッピくん煽りスキル高いな」
「ありがとうございます」
「褒めてへん!!」
仲のいい2人を眺めていると、不意に羨ましいと思ってしまった。
私が幹部と仲良くすることは多分出来ない。肩書きだけで、周りからは認められていないはずだ。……自分で言ってて、ちょっと悔しくなる。
落とした書類をシャオロンさんが拾っていたので、それを手伝うためにしゃがみこんだ。一瞬手を止めたのが見えたが、気にする余裕などなかった。
今以上に嫌われないためのことを、常に考えているから。ずるいなんて、本当は人に言える立場じゃない。
「どうして、手伝ってくれるん?」
「気が向いたので」
「…………それでも嬉しいで。ありがと」
今、ありがとうって言った………?
無意識に視線を上げ、彼の顔を見ていた。
だってお礼を伝えるとか、この人もできたんだなって。
なんだろう、なんかソワソワする。口角が上がりそうになる。
だめだ、ちゃんとシャオロンさんの顔を見れない。
また私は落ちている書類へと視線を落とした。
「(……もしかして、喜んでる?)」
気持ちを無にさせようとひたすら書類を拾っていたら、1つの考えが頭の中でぐるぐると渦巻いた。
冷たいシャオロンさんからありがとうと言われ、普段とは違う甘さに戸惑ったんだ。
……いや、戸惑ったというより、素直に嬉しかったのかも。
だって「この仕事、できるよな?」と圧をかけてきた人が、私に対して「ありがと」だよ。
好かれるために頑張ってよかったって、こういう状況で思える。
この世界は顔だけじゃないって理解していたからでもある。
「シャオさんがお礼言うとか珍しいっすね。いつもは素直じゃないくせに」
「ううううっさいねん!!」
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作者名:かえち | 作成日時:2019年11月3日 18時