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そして赤髪海賊団が誇るプレイボーイであるベックマンが目をつけた女クルーはAだった。
ここで止めるのは流石に野暮かと思い、イライラしながらホンゴウは酒を一気に煽る。
「よう、お嬢さん」
「あ、副船長。こんばんは」
仲間の喧嘩に巻き込まれないように隅に移動した彼女に、ついに彼が話しかける。
さっきのナンパ対決の話は聞こえていなかったのか、珍しいなという顔で挨拶だけ返す。
「こんなところで何してたんだ？」
「いやぁ、あそこで喧嘩ばっかり起きるので離れていただけです」
「はは、アイツらも若いな。
それより隅にいるより俺と一緒に飲まないか？
アンタみたいな美人が酌してくれたら酒ももっと上手くなる」
ベックマンはAに顔を近付ける。
「うわっ、距離の詰め方がガチだぜ」
「俺があんなことしたらビンタされるわ……」
仲間たちは少し引きながらも手に汗握っていた。
「私は飲みませんが、お酒は注ぎますよ」
彼女は少し慌てたような顔をしていた。
それがいくら自分が所属しているとはいえ四皇の船の副船長に酒の誘いを受けたからなのか、
ベックマンの色香にやられたからなのか、はたまたそのどちらもか。
何にしろホンゴウの腹の虫は収まらない。
くそっ、ベックマン。よりによってなんであの子なんだ。
また酒を煽ると、仲間から心配の声が上がる。
「おいホンゴウお前酔いすぎだ」
「うるせぇ。俺は海賊だ。飲ませろ」
樽ひとつ無くす勢いで、しがらみもなく飲む。
もう今日は幹部としての示しがつかないとか考えないことにしよう、とホンゴウはまた酒を注ごうとする。
「あっ、私が注ぎますよ！この瓶のでいいですか」
すると、この船には珍しい鈴のような高めの声。
誰かのふざけた裏声なんかじゃない。
目をやればベックマンのつれてきたAがいた。
幹部に囲まれていることに恐怖心を抱いているのか、どこか怯えた表情をしている。
「……ん？あァ、悪ぃな」
平然を装おうとすると、ぶっきらぼうになる自分にホンゴウは嫌気がさした。
いい歳したオッサンがやることでは無いのだ。
しかしベックマンのように女好きなイメージを持たせないように気をつけていたため、
彼女にだけベタベタすれば怪しまれるだろう。
でも自分に酒を注いでくれた。それだけが嬉しかった。
「あ、モンスターさん。バナナ持ってきますか？」
自分に向けられていた注意が、すぐに他に向く。
どこか名残惜しかったし、モヤモヤした。
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作者名：あみ | 作成日時：2022年10月12日 1時
