(名前)視点 ページ19
私は急ぐように医務室を出た。
なにか用があったわけじゃないし、急ぐのは嫌いなのに。
外に出た今なお心臓がバクバクと脈打っているのは、
幹部の方に告白をされたからのか、
それともホンゴウさんだったからなのかもわからない。
ただ、「なんで」という疑問だけが頭を渦巻いていた。
あの言葉が嘘じゃないというのならば、何故私なのだ。
きっと今だけだ。錯覚だ。
このレッド・フォース号に女性が少ないのもあるだろう。
理由としてはそれだけで十分だとも考えられるのに、
期待するのがやめられない。
別に誠意ある一言だったと信じきってもいいが、
私にはひとつ引っかかるものがあった。
私は海賊が嫌いだ。
この船じゃ目立った略奪行為をする者は少ないが
言ってしまえば海賊というのは犯罪者集団だ。
私もその一味に成り下がっていることくらいわかるが、
だからこそ人間としての喜びを感じることに
この世の不条理さを感じるのだ。
直接罪なき一般人相手に海賊行為をした訳じゃないが、
悪党共からかっさらった宝物たちは元を辿ればきっと人々が稼いで大切にしていたものだったのだ。
今更陸に戻れやしないし、そこで幸せにのうのうと暮らすことは私にはできない。
だから私はせめて海賊らしい海賊になりたくなかった。
それなのに、海賊として生きているのにも関わらず
人に特別な好意を抱いてもらったことに罪悪感すら感じる。
ここまで汚く生き長らえてしまったのに。
きっと他のクルーはそんなこと思ってもいないだろうし、
考えすぎな私が生きづらい性格をしているだけだ。
だけど、私は「海賊の私」のことを好きじゃない。
穢らわしいし最低で最悪だと思う。
私は弱小海賊の船で生まれた。
それから紆余曲折あって赤髪海賊団の船に最近乗ったから、
私は生まれた時から海賊だったのだ。
生まれたからにはもっと生きたい。
自分でも海賊として生きる自分を醜く思うし、
海賊をしているというだけでどんな人間でも先入観で苦手になる。
それなのに、仲間として接してくれるクルーたちが好きだ。
生きることに罪悪感はあるのに、
面白いことがあったら腹から笑って酒を飲んで喧嘩を眺めて肩を組んで歌う。
そんな生活が楽しくて仕方ない。
私の心の根は海賊に染まっているのだ。
それなのに自分を海賊であると認めたくない自分もいる。
それから最近は目を背けていたのに、
人間的に幸せな道を選ぼうとする自分にいよいよ嫌気がさし始める。
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作者名：あみ | 作成日時：2022年10月12日 1時
