・ ページ18
「読みたい本があって」
眠れなかった本当の理由なんて言える訳もなく、Aは適当な言い訳をする。
一瞬でバレたことはわかるが、それ以上触れてこないホンゴウに驚く。
そして彼は少し口ごもった後、
「別に、嫌だったら聞き流してくれて構わねェ」
と沈黙を破った。
「返事は……欲しくねぇと言えば嘘になるが、強制じゃない。
二日酔いのオッサンの戯言だと思ってくれよ」
妙な前置きをして、長い間思考をめぐらせた顔をするホンゴウ。
その後、腹を決めたとばかりに目を閉じて開いて、
「A、お前のことが好きだ」
とだけ言う。
また沈黙が二人を包んだ。
「あ、えっと……」
「悪ぃ、いきなりこんなこと言われても困るよな。
昨日だってそういう風に示しちまったし、
遊びでやったんじゃねェってことだけ伝えたかった。
それだけだ」
ごめんな、なんて儚げに彼は言う。
Aは驚いて声も出なかったが、
「ありがとうございます」とぶっきらぼうに返した。
他に返事が思いつかなかったのだ。
嬉しくない訳じゃないが、なんで自分なんかが、という気持ちと
なんだかモヤモヤする、複雑な気持ちとが争っていた。
「そろそろ、行きますね」
途切れ途切れになる言葉。
「ああ」と響くいつもより低くて掠れた声で返事がされる。
「ありがとうございました」
緊迫した雰囲気を無視して、ドアは開かれてまた閉められる。
一人になった部屋で、ホンゴウは手で顔を乱暴に覆ってため息をついた。
ずっと言いたかったことを言えたのに、
後悔しないって思ったのに。
なんでこんなに嫌われたかもしれないと思うだけで辛くなるんだ。
柄じゃねぇし、似合わねぇ。
ダサいだけだ。
そう思ってなんにもなかったかのように立ち上がる。
薬の調合でもしようか、なんてわざと口に出してみるが
ただただ虚しいだけだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 148人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あみ | 作成日時：2022年10月12日 1時
