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「……今の俺に言われちゃ警戒するかもしれねェが、
手当するから着いてきてくれるか？」
ホンゴウは複雑な表情でそう告げる。
「はい、わかりました」
それにAは模範的な台詞で返す。
そこそこに長い廊下を歩いている間も、気まずい空気が流れて二人とも沈黙を破らなかった。
「失礼します」
「あァ。すぐ終わらすからな」
やっと口を開いたのも形式的な挨拶のため。
「じゃあ、腕を見せてくれるか」
「……はい」
別に大した怪我じゃないし、流行病も今はないため衛生的にも気をつけるような深い傷ではないのにな、と思いつつも
これがホンゴウにとっての一種の罪滅ぼしであることを察していたAは再び口を噤む。
「化膿してねェし、きちんと血も固まってる。
一旦消毒だけするな？少しだけ染みるかもしんねェから、我慢してくれ」
優しく語りかけるようにホンゴウは言う。
普段は誰に対してももっと荒々しい口調や手つきだった気がして、Aはまたしても複雑な気分になる。
特別扱いをされている気がして嬉しくも思ったが、
それは浅はかで浅ましいことかもしれないのだと心を持ち直す。
海賊として海に出た以上、彼女は女の子としても一般人としてももう扱われないと思っていたのだ。
「はい」
そうとだけ答えると、ホンゴウが真面目な顔をして優しく手当てをする。
一晩経った小さい傷など、消毒する間でもないのに治療されるのは彼女としても微妙だ。
なんだか挨拶以上に酷く形式的というか、儀式的な、
なんというか気を遣われすぎているようなそんな感じ。
下っ端の私なんかを気にかけないで欲しい、とすら思っていた。
「よし、じゃああんまり患部は触りすぎるなよ」
「はい。ありがとうございました」
「あァ……それと重ね重ね言うようだが、本当に昨日は悪かったな」
ホンゴウは甲板にいた時と同じような表情で謝罪した。
しかしAには謝るようなことでは無いとまで感じられる。
「……どうして謝るんです」
「いやァ、そりゃいきなり皆の前で抱きついて怪我までさせたんだからよォ」
ホンゴウは焦ったような顔をしたが、すぐに切り替えて受け答えする。
その顔には基本的には困っているが、ほんの少しだけ喜びの色が滲んでいる。
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作者名：あみ | 作成日時：2022年10月12日 1時
