mellow (g41) ページ25
*生命へ のふたり
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葵ちゃん、待って、行かないで。まっ暗闇の中で、その小さな背中がどんどん遠くへ行こうとする。無我夢中で追いかけるけど、彼女には届きそうになくて。諦めたくなくて、走り続ける足は、今にも悲鳴を上げてしまいそうだ。
いつからそんな足速なったん。昔から運動音痴で、スポーツだけは苦手やったくせに。そんな風に逃げるなら、俺、太刀打ちできひん。
心の中で葵ちゃんに文句を言いながら、憧れた背中を見つめた。結局、俺はいつまでも追いかけるばかりで、彼女が手に入るなんて、わがままな夢だったのかもしれない。
皓太、と優しく笑う顔とか、大きくなったね、と伸ばしてくる掌とか、俺が前に立つとすっぽり隠れてしまう肩幅とか、時々見えてどきっとする背中とか、脱いだ靴を並べるととんでもなく小さく見える足とか、ああもう、何もかも全て。
「…好きや、」
だから、逃げないで、どこにも行かないで、ずっと俺の隣で笑っていて。そう強く思うと、逃げていた葵ちゃんは突然立ち止まって、振り返る。そして、。
ーーー皓太、皓太!
「…っ、るさ」
耳元で響く、大きな声。あんな遠くにいるのに、どんな声量してるんだ。そんなことを考えていると、体が揺れて、視界が明るくなった。
「…っ、葵ちゃ、ん」
「皓太、大丈夫?魘されてたよ」
「え…、は…?ゆ、め?」
「夢みてたの?どんな夢?」
「葵ちゃんの足がめっちゃ早くて、全然追いつかんくて…追いかける夢」
「ふは、なあにそれ」
あ、笑ってる。良かった、夢だったんだ。やっぱり笑顔がかわいい。小さい頃から変わらない笑顔。
「良かった、熱下がってきたね」
「熱…?」
「昨日、熱が出たって連絡きたからびっくりしたよ…覚えてないの?」
「え、あー…なんとなく覚えとる」
「ずっと看病してあげてたんだから、今度高級焼肉奢ってよね」
「えぐ…」
「…うそ。早く良くなるといいね」
お医者さん行ってね、と小さな手が額を撫でた。その掌に、ほっとする。葵ちゃんがここにいる、ってそう思えて、安心する。
「葵ちゃんがな、めちゃ逃げるから、俺必死になって追いかけるんやけど、」
「うん」
「…なんや、現実みたいやった。せっかく捕まえた思うたのに、また逃げんのかい、みたいな」
「…」
「だから、夢で、ほんまよかった…」
少し俯いた瞳から、綺麗な睫毛が覗いた。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは*コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います! (2019年11月7日 20時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます! (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして*こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います!コメントありがとうございました* (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています! (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます*気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです* (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月18日 23時