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ーーーふざけんな
アパートの階段を上がっていく彼女を、他人事のようにみていた。だけど、収まらない苛立ちが沸々と湧き続けて。
気付いたら車から飛び出て、彼女を追いかけていた。鍵を刺し扉を開こうとする葵さん。その扉を後ろから両手で力任せに押さえつけた。驚いて振り返った彼女は、目にいっぱいの涙を溜めていた。
俺と開けられない扉に挟まれて、困り果てているこのひとが何を考えているかなんて、俺には絶対分からない。
「なんで、泣いてんねん」
「……っ、なんでも、ない」
「なんでもない奴が泣くか」
「西川くんには関係な、いから」
「この流れで関係ない訳ないやろ」
「……っ」
「何もせえへんから、玄関まで入れて。ここじゃ、近所迷惑やから」
そう言うと、渋々頷いた葵さん。小さく音を立てて開いた扉に、怯えたような彼女は入っていく。後ろから付いていくと、玄関から彼女の香りが広がっていてくらっとした。
「葵さん」
「……っ」
「なんで泣くん」
「し、らない…っ」
「なんやねんそれ」
「分かんない…分からないの」
「…」
「自分でもなんで泣いてるか、分からない…っ。西川くんに言いたいこと言ったのに、言ったら言ったで悲しくなって……っ、よく、分からな、」
「…葵さん、それ」
「…っ、なによ」
「俺には、良い意味に聞こえるんやけど」
「……は?」
あ、怒った。泣きながら不満そうな表情。
「葵さん、俺な」
「なに…」
「葵さんのことすきや」
「……え」
「だから会いに行く。構いに行きたくて行く。もう構わないで言われても、俺は絶対行く」
「……何を言って、」
「やから、葵さんが本音を話してきて、心底ムカついた。だけど、泣いてる葵さん見たら、どうでも良くなってきた」
「西川くん、」
「俺たち付き合ってるって、堂々とすれば、妬みつらみもなくなるやろ」
「な……っ」
「俺は…葵さんがすきです。俺と、お付き合いしてもらえませんか?」
泣いてる彼女がかわいくて。俺は少し笑いながら、彼女の顔をのぞき込む。真っ赤な葵さんはどうして良いのか分からず、しばらく黙っていた。
だけど、何か決心したかのように。
「…西川くんと会えないのは嫌だと思って、多分泣いたの。それは、すき、ってことなのかな」
そう小さな声で囁くから。愛しくてかわいくて、めいっぱいの力で抱きしめてしまった。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは*コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います! (2019年11月7日 20時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます! (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして*こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います!コメントありがとうございました* (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています! (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます*気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです* (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月18日 23時