愛にみえた (sh51) ページ1
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生活感のある彼女がすきだった。
薄いファンデーションに優しい赤のリップ、自然な眉毛に小さなピアス。パーカーを羽織って現れた彼女は、年下にさえ見えてしまう。黒い小さなリュックサックから取り出した携帯を、テーブルの隅に置き、外寒かったよ、なんて言いながら、暖かいお手拭きに頬を緩ませている。
「お待たせしてごめんね。結構待った?」
「いや、全然。さっき着いたところでした」
「本当?上林くん、優しい嘘はつくから」
そう言って、彼女はかわいく笑う。ショートヘアが良く似合うひとだと思った。飾り気がないのに、どこか雰囲気のある彼女と俺は、傍から見てどう映るのだろうか。
葵さんと出会ったのは、数年前。まだ成績も出せていない頃、小さな居酒屋でお酒に負けていた彼女を、ひょんなことから自宅まで送り届けた。ただ送って帰ろうとしたのに、翌日、それはもう土下座するかのような勢いで謝罪の電話してきた葵さん。番号交換をしたことさえ忘れていたのに、きっちり謝罪のために連絡してくる葵さんを、かわいいと思ってしまった。
二つ年上、一人暮らし、小さなカフェで働いていて、猫を飼っている。アパートは古くて小さいけど、愛着があって離れられない。
俺が知っている彼女の情報。そしてたまに、こうして出会った居酒屋に集合する。
「葵さん飲みますか?」
「うん、明日お休みだから飲もうかな」
「最初生でいいですか?」
「うん、ありがとう」
お酒とおつまみを程よく注文する。葵さんがお酒を飲んで、俺が自宅まで送り届けるのは、いつしか決まりごとになっていた。
注文したのにも関わらず、メニューを見ながらにやにやする彼女。食べることがだいすきな彼女は、こっちもおいしそうだな、と小声で呟いている。
そんなところもかわいいと思ってしまう俺は、かなり重症だと思う。そんな曲がった気持ちを、葵さんはひとつも知らない。
「ふあー、上林くんはどんどん有名になっちゃうね」
「急にどうしたんすか」
「ちょっと前まで、個室じゃなくても平気だったもの。今じゃあ、偉いことになるよ」
「……福岡だけですよ。そもそも大袈裟」
「…ねえ、ちょっと太った?」
怪訝な顔をして見つけてくる彼女。太ったんじゃなくて、増やしたんです、そう伝えると、謝りながら笑っている。このひとといると、空気がゆっくりになる気がする。
騒々しいなにかから、放たれる。癒される。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは*コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います! (2019年11月7日 20時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます! (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして*こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います!コメントありがとうございました* (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています! (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます*気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです* (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月18日 23時