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yuzuru.side
あの日は、舞台上でミスして、
めちゃくちゃ落ち込んで、劇場近くのベンチでうなだれていた時や。
『あの……大丈夫ですか…？』
急に声が聞こえてきてびっくりして辺りを見渡すと、今にも倒れるんちゃうかっていうくらい白くて、痩せてて、顔色も良くない、そんな女の子が立ってた。
それがA。
河井「え、俺…ですか…？」
『すごい落ち込んではるんで。…あ、これ良かったら飲んでください。……って、コーヒー飲めます？』
河井「……わざわざありがとうございます。」
わざわざ俺にコーヒー買ってきてくれたんかな、変わってんなーって思ってたらそうじゃなくて。
『あ、違うんです！自販機で飲み物買ったら、たまたま当たりが出まして…。びっくりして飲めもしないコーヒー選んでしまったので…なんで、残り物で申し訳ないですけど』
そう言って笑った顔に見惚れてた自分がいた。
河井「……それは俺の為に買ってきたってことにしといたほうが聞こえ良かったんちゃう…？」
『いや、さすがに初対面の人にいきなり飲み物買ってきたりしないですよ…』
へらっと笑う顔をよく見ると目の下のクマがすごくて。
そんなぼろぼろやのに、見ず知らずの俺の心配なんかして。
変な子やなーって思ったんも事実。
河井「ははっ、それもそうか」
『ま、それ飲んで元気出してください。……何があったかは分からないですけど、笑顔の素敵なお兄さんならきっと乗り越えられますよ！じゃ、そういうことで！』
なんかもうちょっと話してたくて、でも話題なんか見つからんくて。
でも口は勝手に「ちょっと待って」って呼びとめてしまってた。
『…なにかありました？』
河井「あーえっと…コーヒーありがとう。」
『いえいえ』
河井「……なあ、そこの劇場来たことある？」
『いや、…ないですけど…』
河井「そうなんや。…おもろいからまた今度機会あったら行ってみ」
『わかりました、ありがとうござます！』
それで特に連絡先も聞けんくて、終わり。
もう会うことないやろなーって思ってたけど、ふとした時にあの子元気にしてるかなーとか、ちゃんとご飯食べてんのかなーとか、ずーっと考えてた。
暇があったらあのベンチに行ったりもしてたけど、結局会うことはないまま。
せやから劇場で見た時はびっくりしたわ。
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作者名：KaZu | 作成日時：2021年4月26日 23時
