涙の跡 ページ36
「おい!」
「は、はいっ!」
緊張で声が上ずる。
「何早速やられてんだァ」
「え?」
意味が分からなくて、視線が泳ぐ。
左手首を捕まれたかと思うと、実弥さんの方にぐいっと引かれた。
「あ………」
いつの間にか腕を切っていたらしい。
血が一筋、指先に垂れてきていた。
実弥さんの手が私の隊服の袖を捲ると、手首の直ぐ近くに三本の引っ掻き傷があった。
今まで全然気が付かなかったのに、認識した途端に独特の痛みをじんじんと感じる。
「…いつの間に………」
呟いて思い出したように、隊服のポケットに手を入れると、ハンカチを取り出す。
とりあえず結んで止血しようとすると、ハンカチは実弥さんによって私の手から奪われた。
「あっ!」
「貸せ。大人しくしてろォ」
そう言うと、手際よく手当てしてくれる。
その姿に私が風柱邸に来たばかりの頃、包丁で指を切ったときの事を思い出す。
あの時も、彼は私の傷の手当てをしてくれた。
ぎゅっとハンカチが強めに結ばれる。
「ぃっ!」
思わず、小さく呻く。
「我慢しろォ」
「…はい」
返事をして、ちらりとまた実弥さんを見た。
真剣な眼差しで私の手当てをしてくれている。
そうやって、私に優しく接してくれるから、何度も何度も蓋をした筈の気持ちが、いつの間にか溢れだしてくる。
けれど、彼の目元に涙の跡を見付けて、ハッとさせられた。
空いている手が自然とそこに伸びる。
「出来たぞ。…って!オイ!!」
私はいつの間にか実弥さんの頬に手を添えて、親指でその跡を撫でていた。
「………泣いたんですか?」
驚いている彼の目が揺れる。
「…っ、御館様は………?」
尋ねる声が震えた。
「………守れなかった」
「………!」
その言葉が指す意味に声を失う。
落ち着いた声の、柔らかな口調で私たちに陽翔と陽葵の面倒を見て欲しいと微笑んでくれた御館様。
同時に私を隊士として鍛えるよう実弥さんに頼んでくれた御館様。
誰よりも鬼殺隊の隊士を大切に思っていたその人はもうこの世にいない。
実弥さんが悔しそうに顔を歪める。
「クソッ!」と怒りをぶつけるように、握った拳で自信の膝を叩いた。
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月見(プロフ) - 澪凪さん» 嬉しいコメントありがとうございます!お待たせしてばかりですが、更新頑張りますね!最後までどうぞお付き合い下さい(*^^*) (2021年7月29日 21時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
澪凪(プロフ) - やばいです好きぃぃぃぃぃぃぃっ!!頑張ってください、めっちゃ楽しみにしてます! (2021年7月29日 9時) (レス) id: 279a2ef6a9 (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!おっしゃる通り、すれ違いつつもこの辺りから少しずつ二人の距離が縮んでいく予定です(*^^*)のんびり更新ですが精一杯頑張るので、最後までよろしくお願いします! (2021年7月6日 21時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん(プロフ) - めっっっちゃめちゃ面白いですね…実弥さんと夢主さんがすれ違いながらも徐々に近付いていく感じがね!もう、ね!(*´・v・`)いつも更新、本当にお疲れ様です。これからも楽しみにしております!! (2021年7月6日 10時) (レス) id: b998dfb0fd (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!小説版読んでいた時に、実弥さんとカナエさん…そうなのかな?と思ったので、「2」で一瞬カナエさんのこと書きましたが、ファンブックで確定したときは驚きました(*_*)まだその辺の下書きがとっ散らかっていますが、更新頑張りますね(^^) (2021年6月18日 17時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2021年6月18日 5時