狂愛病 Case1.独占欲 (ページ5)

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ごくり、缶ジュースの最後の一口を飲み干す。

「…」

落ち着かない。
デートの待ち合わせ10分前の公園で、俺はあたりを見回して彼女の姿を探した。
姿がないことを確認すると、ポケットからスマホを取り出し彼女の連絡先を開く。
そして、メッセージを打とうとして、ハッと我に返る。
先ほどからこれを何度繰り返していることだろう。
スマホをしまい、頭をぐしゃりとかき乱した。
早く会いたい。
声が聴きたい。
姿を見たい。
早く俺を見て、俺の声を聴いて、俺に笑みを向けてほしい。
もうそこまで来ているのか、もしかしたら誰か友達と会って喋っているのか、ナンパでもされてるのか、事故にでもあっているのか。
不安のような苛立ちのような感情が、ぐるぐると胸中で渦を巻く。
…その気持ちを抱え、五分が経った。

「…あ、」

ふと視線を上げると、こちらに駆け寄ってくる君を見つけた。
胸中を支配していた感情がすうと引いて、温かい幸福感のようなものに入れ替わる。
目の前に来た彼女の手を取り、ふっと笑みを作った。

「…会いたかった」

唐突に口から漏れた言葉に、君は照れくさそうに笑う。
その笑顔は、先ほどまであった落ち着きのなさが嘘のように、俺の胸を落ち着かせた。

「走ってこなくても良かったのに」
「転びでもしたら、大変だよ」

そんな言葉とは裏腹に、心の内側では彼女が俺を見つけて走ってきてくれたことに大喜びしていた。
一秒でも早く、一センチでも近く、彼女の傍にいたいと思っていたから。
君は大丈夫だと言った後、待たせてしまったかと首を傾げる。

「ううん、そんなに待っていないから、気にしないで」
「……え、缶ジュース…?」

彼女の視線が少し下げられ、俺の左手を見た。
そこには、しっかりと握られている空き缶が。
……捨て忘れた。
微かに、冷や汗が噴き出したような気がする。

「あっ、いやこれは…」

慌てる俺を見て、申し訳なさそうな顔をした君がもう少し早く来ればよかったと頬を掻く。

「いや、君がそんなことを言う必要はないから…」
「俺が早く、来ちゃっただけだし」
「ほんと、気にしないで」

彼女に気を使わせないように言葉を並べながら、自販機の隣にあるゴミ箱に空き缶を捨てる。
その足で公園を出て、今日の目的地である水族館へと足を向けた。