〃 ページ27
(…あ゛ぁー、クソ…)
彼女が今、どんな顔をしているのか。
そう思って視線をこっそりそちらに向けるが、身長差のせいで表情はまるで見えない。
ただ、歩くたびに揺れている髪が綺麗だと、思った。
(って、俺気持ち悪すぎだろ)
自己嫌悪していると、あのさ、とお前が口を開いた。
「…なんだよ」
彼女の口から出てきたのは、他愛のない世間話。
(……また、気ぃ使わせた…)
だが、おかげで空気が少し軽くなった。俺がやろうとしても出来なかったが。
けれど彼女のその顔は雑談をするには少々硬すぎる気もする。
先ほどよりしっかりと彼女に視線を移す。
視界に映るお前の姿は
俺より小さな歩幅で一生懸命についてきていて、様子を窺いながら話題を探していた。
そんな姿が、胸をくすぐった。
(…)
「…………………可愛いよな」
瞬間、タイミングがいいのか悪いのか、トラックが道路を走って行った。
煙ったいような臭いが、微かに道路に残った。
「あ゛…」
「ッ!!!!!!」
「バッ、ちっが、いっ今のは!!!」
お前が反応するより早く俺は声を荒げた。
けれど、お前は小首を傾げ言いにくそうに「聞こえなかった」と苦笑した。
トラックの音で、声がかき消されてしまったのだろう。
安堵したような、でも聞こえていてほしかったようなとてつもなく複雑な思いだ。
「…き…聞こえなかったんなら、別にいい」
「大したことじゃねえって」
「……うっせえ、言いたくねえんだよ」
視線を逸らすと、お前はちょっと残念そうにそっかと諦めた。
彼女の表情はまだ明るくて、楽しそうに見える。
(…俺が取り乱したから、おかしいとか思ってんだろうな)
(……やべえ、顔、熱い…)
(ま、まさか顔赤いとかねえだろうな)
手の甲で頬に触れる。
鏡なんてものは持っていないから、頬にある熱で確かめるしかなかった。
(…クッソ…最悪だ)
(顔赤いとか恥ずい…情けねえ)
一人で慌てて声を荒げて。
数秒前のそれを思い出すと一層熱くなった。
どうかそれをこいつに見られないようにと、顔を少しだけ背ける。
ただ、そうすると相手の様子が窺えなくなり、なんだかもどかしかった。
「…っ、お前は、」
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作者名：不雲綺
| 作成日時：2017年7月21日 17時
