〃 ページ12
(どうして、あの子が、俺の、彼女と、一緒に…)
また視界がぼんやりとする。
Aちゃんの姿だけが、その視界の中で切り取られはっきりしている。
脳内によぎる君の笑顔。
先ほどまでの落ち着かない気持ちが嘘のように、胸に安堵感が広がった。
・
俺は人気者。
生徒からは、学園の王子様。
教師からは、優等生。
親からは、自慢の息子。
憧れるような響きだけど、そんな響き、何にも良くない。
そう呼ばれれば呼ばれるほどに、俺は皆の期待に応えなきゃいけなくなる。
王子だと言われれば、常に笑顔でいて、優しい言葉使いで、誰からも愛されるように演じなくてはいけない。
優等生だと言われれば、王子と同じで優等生を演じなくてはいけない。
…そんなもの、望んじゃいないのに。
けれど俺を取り巻く世界は、それが絶対だった。
王子で優等生なリョウがいなくなることは決して許されない。
俺にはそれが苦痛で、仕方ない。
だからこそ、その苦痛を和らげてくれた君の言葉をよく覚えている。
彼女も真面目だから、二人で先生の手伝いをしていた時のことだ。
君は先生がいなくなった瞬間、「無理しなくていいから」そう言い放った。
それは別に、王子や優等生を演じることに言っているわけではない。
ただ、体調を崩していた俺に、かけた言葉だ。
体調が優れないことを見抜かれ、思いがけない言葉に戸惑う俺にまた君は「たまには肩の力を抜いたら?」と言った。
…凄く嬉しかった。
演じなくてもいい。そう言われている気分だった。
(…素の俺を、見てくれると、言ってくれたこともあった)
(素のままが、一番いいと)
(君は、俺の欲しい言葉を与えてくれる)
(俺の欲しい世界を与えてくれる)
(あれ、)
(…それって、いつのことだっけ)
(何処で、何してるときに、言われたんだっけ)
(君が言葉を、世界を与えてくれるって)
(それ、いつ、俺は、感じた?)
(あれ…?)
(……あれ…?????)
思い出せない。
あの子の表情も、声も、こんなにもはっきりと覚えているのに。
「……………Aちゃん?」
学校の帰り道、俺ではない誰かの隣を歩く君が見えた。
遠くにいるせいか、背中が凄く小さく見える。
もやもやした。
君が、俺の隣にいないことに。
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林檎麻(プロフ) - お久しぶりです...!!リクエスト受け取ってくれてありがとうございます..!!とっても満足しました!! (2017年11月7日 23時) (レス) id: 5f64ee0b75 (このIDを非表示/違反報告)
不雲綺(プロフ) - ミユティさん» こちらこそありがとうございました!これからも彼に振り回されてやってください(笑 (2017年11月6日 22時) (レス) id: ccdc96260d (このIDを非表示/違反報告)
ミユティ(プロフ) - 久々の小見川くん、とても良かったです!!!!!良く考えたら小見川君のリクエストはこれで二回目ですね笑リクエストに答えて下さり本当にありがとうございます! (2017年11月6日 21時) (レス) id: ffac928163 (このIDを非表示/違反報告)
ももか(プロフ) - 不雲綺さん» そうだったんですか、全然大丈夫です!これからも更新頑張ってくださいね (2017年11月3日 22時) (レス) id: fd489c71d0 (このIDを非表示/違反報告)
不雲綺(プロフ) - ももかさん» 申し訳ありません。この作品は今リクエストいただいてるものを書き終えたら更新を一時停止する予定でして…リクエストは受け付けておりません。説明文にリクエスト中止と表記しておらず、申し訳ありませんでした。 (2017年11月2日 18時) (レス) id: d72d593e93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年8月29日 17時