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吉野先生の傘に二人で入って向こうへと進んでいく彼らに、
私の声は届いていないようだった。
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「か・・カズにぃ・・っ・・」
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どんなに大きな声で呼んだって、
カズにぃと吉野先生の足は止まらなくて、
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きっと吉野先生の車でどこかへ行くのだろう。
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一緒に車へ乗って、
そして、二人でどこへ行くの？
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何をするの？
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どうして私から離れていくの？
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いくら聞いたって、きっとカズにぃの口には
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"関係ない"
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そんな一言で片付けられてしまうんでしょう？
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そんなのイヤ。
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けれど、
そう感じたときには、
傘なんて放り捨てて
私は、
向こうの方を歩くカズにぃの元へと
走り出していて･･。
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「カズにｯ・・」
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真っ黒な雲からは、
私の身体に突き刺さるように雨が降る。
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私の声に気がついて振り返ったカズにぃ。
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その隣には、雨が降ってても綺麗なままの吉野先生。
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二人は、とってもよく似合ってる。
二人の相合傘はお似合いだ。
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和也「・・え・・、お前、傘は。」
吉野「二宮ちゃん、どうかしたの？」
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だけど
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ヤダ
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何これ。
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私、
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超惨め。
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目の前に居る二人がお似合いすぎて
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"妹"の私なんか入る隙もないくらい。
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ホント、何してんだろ。私。
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私の制服には、
どんどん水溜りのような、雨の染みができて、
それと比例するように、
どんどん私の心は冷えていく。
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和也「・・何。まだ、なんか用あった？」
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そう言い放ったカズにぃの声と、言葉は
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身体に突き刺さるようにして降る雨よりも、
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今一番聴きたくない吉野先生の声よりも、
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二人で仲良く相合傘をして歩く姿を見るよりも、
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一番深く、
私に突き刺さった。
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作成日時：2012年5月1日 19時
