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天神屋のお帳場は本館内部の一番奥に通ずる大扉により仕切られる。
大旦那様の部屋を出てから丸天と大きく書かれたその扉の前に、
すっかり重くなった足を引きずりながらようやくたどり着く。
扉に手を付き、長く重いため息をついた。
さて、帳場の皆を部屋に引っ込ませるのにどれ程時間を食うか…
そんなことを考えていると、目の前の扉の片側が、ギッと重い音を立てた。
勿論、開けたのは私じゃない。
「おや、千鶴？」
「！あらA様、お疲れ様です」
扉からするりと出てきたのはメガネときっちり結い上げた黒髪が特徴の、
現お帳場長補佐を担う千鶴だった。
彼女は既に帰り支度を整え、今から宿舎に戻ろうとしている様子だ。
あれ…？
そういえばさっき彼女が扉を開けた時、そろばんの音がしなかった。
「もしかして、今日の仕事はもう終わりかい？」
「はい。あ、いえ、少々語弊がありますね…」
そのまま二人で丸天扉前で立ち話をすると、白夜の支持で今夜は一旦作業を切り上げる事とし、
明日の出仕を一刻早めることになったのだと言う。
だから従業員がほぼ退出したのを見送り、自分も今から上がる、と。
お帳場は天神屋の中でも特に真面目すぎる真面目が多く、残業しがちな部署だ。
今日みたいなハプニングが起きると特にその傾向が強く、寝ることすら惜しむ者が多い。
だからこそこうして無理やり灯を落としに来るのだが…
私が呆気にとられていると、目の前の千鶴がメガネの奥からじっと私の顔を覗き込む。
その瞳が、他の皆と同じように少しだけ細められる。
「お帳場長の判断に納得です。
A様も相当お疲れのご様子。なるべく早めに休息を取ることをお勧めします」
「ありがとうね。ここの灯を落としたら私も上がらせてもらうよ。白夜は？」
「お帳場長でしたら、まだ中で仕事中です。暫くは動かれないかと」
「そう…」
短く要点を告げると、千鶴は「では、私はこれで」と言って宿舎のほうへ歩き出す。
その肩口に、一つ鬼火を灯す。送り火だ。
いきなり側に現れた青い鬼火にびっくりして、千鶴はもう一度こちらを向く。
珍しく、少し困惑している。
「宿舎までとはいえ、足元には気を付けてお行き。おやすみ、千鶴」
「…はい。おやすみなさいませ、A様」
ぺこりと丁寧に頭を下げ、彼女は足元を鬼火に照らされながら、今度こそ宿舎の方向へと去っていった。
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猫築かなめ - とても楽しく読ませていただきました、夢主が大旦那様の元婚約者だったというところを詳しく知りたいです (2020年8月10日 11時) (
レス) id: 8f5697df22 (このIDを非表示/違反報告)
こしあんのお餅 - すごく面白かったです！ (2019年6月2日 17時) (レス) id: 436e739fd5 (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑 - 夢主さんが大旦那様の元婚約者だったとは・・・！驚きました！私、こういうシリアスな感じの小説すっごく好きなんです！たとえ、作者様が自己満足でも私はとても楽しみにしています。気が向いたらで本当に結構です。大変だと思いますが更新頑張って下さい！ (2019年3月7日 23時) (レス) id: 8f1f373125 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そーめん | 作成日時：2018年11月22日 0時
