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葵とお涼が自室を訪れた次の日。
残りも少なくなってきた資料をまとめて部屋を出る。
最近自室に篭っていることが多いせいか、外の空気が随分と懐かしい。
「暇を貰ってる身とはいえ、気をつけないとねぇ」
妖は長生きだから、一度怠け始めると時間が経つのを忘れやすい。
私もそれなりの年だけど、まだまだ外見は若いのだから…。
・
向かうのは天神屋の離れにある古民家。
ここ半年は新しい家主との思い出が集まりつつあるその場所には、今日は自分の仕事で来ている。
「こんにちは、葵」
まだ営業時間には遠い店の引き戸を開け、中へ入る。
家主たる若い娘は営業時間前にもかかわらずやる気十分で私を出迎えてくれた。
「いらっしゃいAさん!待ってたわ」
「悪いねぇ、手伝わせて…」
「現世のお料理ならいくらでも聞いて!」
「フフッ、頼もしいね。それじゃあ早速始めようか」
「ええ」
現世の料理報告書を葵にも手伝ってもらうことにしたので、作業しやすい場所として夕がおが選ばれた。
しばらく二人で話し合いながら作業を進め、半刻もする頃には三分の一が片付いてしまった。
「ふぅ。今日はこのくらいにしようか。葵も店の準備があるだろう?」
「まだお店を開けるには早いんだけど…。じゃあ、今日はAさんが私のお客様第一号ね♪」
「おや。この上お前は働き者だねぇ」
「そんなこと…。Aさんだってそうでしょ?」
「うん?」
台所から投げかけられる視線が、私の手元にある和綴じ本の山を指している。
実は新たに葵から教えてもらった食材や調理法について纏めていたのだけれど…。
やれやれ。彼女には全部お見通しということかねぇ。
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猫築かなめ - とても楽しく読ませていただきました、夢主が大旦那様の元婚約者だったというところを詳しく知りたいです (2020年8月10日 11時) (レス) id: 8f5697df22 (このIDを非表示/違反報告)
こしあんのお餅 - すごく面白かったです! (2019年6月2日 17時) (レス) id: 436e739fd5 (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑 - 夢主さんが大旦那様の元婚約者だったとは・・・!驚きました!私、こういうシリアスな感じの小説すっごく好きなんです!たとえ、作者様が自己満足でも私はとても楽しみにしています。気が向いたらで本当に結構です。大変だと思いますが更新頑張って下さい! (2019年3月7日 23時) (レス) id: 8f1f373125 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そーめん | 作成日時:2018年11月22日 0時