実感。 ページ13
「おいおい、マジか」
はぁ、と深くため息をついた太刀川さんはまたコンビニへと入っていった。
数分して戻ってきた太刀川さんの手にはビニール傘が一本。
「歩けるか？」
「うん」
ゆっくりその場から立つと、ビニール傘を開けてくれる太刀川さん。周りの人たちは、急な雨に近くの軒下に逃げ込む。
さりげなく肩に回された手に下心の疑いをかけるが、目に入った横顔は似合わず辺りを警戒して見渡している。
車がいないことを確認した太刀川さんは歩み始める。
意外。それとも私を気遣ってくれてるのかな。
「なぁ、お前ん家寄ってもいいか？」
いつになく真剣に行動してる太刀川さんを見て、断る理由もなかったから。
「いいけど」
熱くなっていたコンクリートも今では水溜まりを作っている。そこに誤って踏み入れ、足が濡れてしまう。
「あ、A」
私をジッと見る太刀川さんは、さっきとは打って変わりマヌケな顔を浮かべてる。
「透けてる」
「え……？」
薄いワンピースだから、濡れればそうなるのは当たり前だろう。
下着のラインが見えてて、慌てて手で隠す。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。今すぐ消えてしまいたい。
「ほら、これでも着とけ」
隣から出てきたシャツ。ところどころ濡れてて、けど手にとれば体温が伝わる。
「でも……」
「いーから。変なおっさんに目つけられるだろ」
「うお、車」そう慌てた声で道の端に寄る太刀川さん。こんな狭い道を車が通ったらどうなるか、目に見えてる。
車が撒き散らした水にかかる、私と太刀川さん。とくに太刀川さんだけど。
「え、ちょ、大丈夫？」
「返すよ、これ」そう言って、まだ着てないシャツを渡すけど「あー、大丈夫」と戻される。
「どーした」
俯いて黙る私を見て、そう訊ねてくる太刀川さん。
「……なんか、恋人らしいことしてる」
キョトンとマヌケな顔をした太刀川さんは理解したのか口の端を上げて、肩に置いてた手に力を込めた。
「なら、ほらもっと寄れ」
「ちょ…！そういうんじゃなくて…」
「太刀川さん濡れるじゃん」そう口を尖らせて小さく呟く。
自分の服が濡れてるのに、こんなに引っ付いてたら太刀川さんが濡れちゃう。
そんな私の心配を聞いてか聞かずか。
「いいな、こういうの」
一人嬉しそうにしている太刀川さんの無邪気さに、自然と頬が緩む。
恋人ってこんなにいいものなんだな。
◇
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柳スウ - 太刀川さんの小さな気遣いカッコいい。 (2016年7月13日 16時) (
レス) id: 4dc969e182 (このIDを非表示/違反報告)
日菜(プロフ) - 前まで出水くんが一番好きだったのにこれを読んでから太刀川さんが好きになった……凄いいい話…･゜･(｡´ﾉω･`)。ｳｳｩｩ (2016年5月3日 20時) (レス) id: 65293e9234 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：§KAYA§ | 作成日時：2016年5月3日 19時
