意地。 ページ12
Aside
「人多くなったね」
「あぁ」と短く返す太刀川さんに手を引かれる。
ショッピングモールから出ると、目に入った空に雲がかかっていた。すぐに雨が降るというわけでもない、薄い雲が広がってるだけだった。
「帰る？」
「いや、ちょっと寄りてぇとこある」
そう言った太刀川さんの顔は高いとこにあって見えなかった。
◇
「お前ここで待ってろ」
連れてこられたのは近くのコンビニ。出入口前の傘差しに座らされる。
「え、ちょ、」そんな私の声を聞く耳持たず入っていく太刀川さん。
横の少し離れたとこから煙草の臭いが漂ってくる。中年の人が吸っており、吸い殻をゴミ箱に捨てて去っていった。
顔を背けて臭いから逃げる。そこになにかを手にした太刀川さんが戻ってきた。
手のひらサイズの箱を持ってるから一瞬煙草かと思ったけど違った。
「……なんで絆創膏」
私の前にしゃがみ込んだ太刀川さんはヒールサンダルに手をかけた。
「なｯ、ちょ…！」
「黙ってろ」
「お前ほんとバカだな」そう呟いた太刀川さんはジッと“そこ”見つめてため息をついた。
「言えよこういうの」
「……大したことないし」
目に映るのは自分の無様な踵。見事に皮が剥げてて、所謂靴擦れ。
仮にもサンダルなのに靴擦れ起こすなんて。慣れてないとこうなってしまうものなんだろうか。
貼られた絆創膏には皺ができてて、本当にA型なのかと疑うほど。
手先は不器用で、抜けてるとこあるけど、やっぱそこが好きだったりして。
「……ありがと」
手を伸ばせば届くその頭に手を乗せてみる。私より少し下の太刀川さんと目が合った。
「素直じゃん今日」
「っ、うるさい」
そう笑って見せる笑顔に顔が火照ったのが自信でも分かって、そっぽ向く。
反対の踵にも貼ってくれた太刀川さんは「意地っ張りだな」と言い、ヒールサンダルを履かせてくれた。
「折角のデート、なんだし……帰りたく、なかった」
うわ、なに言ってるんだ私。今のは恥ずかしい、そう内心慌てる。
「そっか」
下から伸びた手が私の頬を撫でて、それから太刀川さんはすっと立った。
自然と私の伸ばしてた手は落ちていって、太刀川さんの顔が高い位置へと移動した。
するとコンクリートの地面に小さな染みが広がって、それがだんだん増えていく。
雨だ、そう頭の中で理解したときにはザーザーと強く降っていた。
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柳スウ - 太刀川さんの小さな気遣いカッコいい。 (2016年7月13日 16時) (
レス) id: 4dc969e182 (このIDを非表示/違反報告)
日菜(プロフ) - 前まで出水くんが一番好きだったのにこれを読んでから太刀川さんが好きになった……凄いいい話…･゜･(｡´ﾉω･`)。ｳｳｩｩ (2016年5月3日 20時) (レス) id: 65293e9234 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：§KAYA§ | 作成日時：2016年5月3日 19時
