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「ただいま」
フリージアの香りに癒されていた穏やかな時間は唐突に終わりを告げた。
「おかえりなさいって言ってくれてもいいのに」
「別料金です」
黒いアウターを脱ぎながら笑うパクジミンが私の前を通り過ぎてソファにそれを雑に投げた。
タイミングが悪い。
助言など書かなければあと一歩のところで出くわさず難を逃れられたのか?
なんて思ってもどうしようもない。
だから前回同様ゴミを適当にかき集めて手持ちの袋に詰め込んで。
「じゃあ、失礼します」
善は急げ(早く帰る)だ。
「あーーーーー待って!」
出入り口に向かう私の足をまた止める。
今度は何だと言うのか。
また呆れた言葉を言おうものなら無視して帰ろう。
「何ですか…」
「これ、水ってどれくらい変えればいいの?1日1回?」
振り向いた私の目に映ったのは花瓶に付けたはずのポストイットを手にして真面目な顔でそんな事を言うパクジミンだった。
拍子抜けしたし、そんな事を聞かれたら流石に無視は出来ない。
数秒迷った後でいそいそとパクジミンの隣に立つ。
「…水が濁るとダメになっちゃうんで出来れば濁る前に変えてほしいんです。あと出来れば咲き終わった花は取ってあげて下さい、蕾の花に影響出ちゃうので」
「そしたら長持ちするって事?」
「そうですね、フリージアっていうんですけど比較的花持ちが良い花ではありますね。あとこの香りも良くないですか?あ、香水とかで聞いた事ありません?フリージアの香りって書いてあ…」
言いかけて、止めた。
つい花の事だからと思って喋り過ぎた。
しかもその流れでうっかり隣のパクジミンの顔を見てしまったら、目尻を下げてしっかりと微笑んで私を見下ろしていて余計。
顔の向きをフリージアに戻してわざとらしい咳払いをするしかなく。
「…とにかくそういう事です」
どういう事のか自分でも分からないがそう言うしかなかった。
それでも視界の端でパクジミンが笑みの表情なのが理解不能だし意味不明。
「Aって、本当に花が好きなんだね」
もう一度私がパクジミンの顔を見てしまった事は当然の帰結だ。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時