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世界って広いのに狭いんだ。
まさかこんな形でまた再会するなんて。
アラサーを振る男がいれば可哀想な女だとおもちゃを他人に寄越す男もいる。
「少しは気が紛れた?」
頭を少し傾けて男が言った。
「何の話ですか?」
「それ、使ってるって事は最悪だったのが少しは紛れたかなって思って」
「それとこれとは別ですから」
'失礼しますね'とお辞儀をして玄関に向かう。
このままここにいていつまでも拉致のあかない話しに付き合ってる時間はない。
今日はこの後も配達がある。
"普通の"配達だけど。
玄関に靴を一足も置かないなんて紛らわしいにも程がある。
それともお金持ちはみんなこうなの?
「ねぇ」
綺麗に片付いている玄関に不釣り合いなスニーカーを履いたところで背後から声がした。
「俺の事分かる?」
己の顔を指差した男はまた呆れる質問を口にして
「分かりません、失礼します」
「いやいやいやいやいや、待って」
玄関のドアノブに手を掛けようとした私をまた制してまで。
ここまで来ると露骨に溜息も出る。
しかも私より失礼男の方が背が高くて見下ろされる形なのがまた少し気に障る。
「何ですかもう…」
「失礼男って呼ばれたままじゃ帰せないんだけど」
別にもう会う事ないんだから呼び方くらい黙認すれば済む事ではないか。
しかも自分だって私の事"可哀想な君"って呼んだくせに。
かと言って私はわざわざ名乗ったりしないけど。
じゃあどうすればいいのかと表情だけで訴える。
「
厚みのある男の唇がしっかりとハングルを一文字ずつ発音した。
「俺の名前、後で調べてみて」
何この人。
こうして顔が見えて名前を聞いてもやっぱりその感想しか出なくて'ハイ'とだけ答えて振り向く事なく今度こそ玄関のドアを開けて外に出た。
何故かムキになって帰りのエレベーターの中でNAVERを開いてその名前を検索した。
同姓同名の複数の女性の中、最初に出て来た男と失礼男の顔が頭の中で重ね合わさった。
「……パクジミン…あぁ、この、パクジミン…」
そう言われればそうだ、なんて検索結果を見ても妙に冷静だ。
芸能人という現実より"パクジミンは失礼な男"という結論に落ち着いたからだと思う。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時