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謎のパーカーは有難くそのまま着させてもらう事にした。
温かい。
それでいて大きい。
それにこの香り…
「A、これ」
店長が向日葵を1本持っている。
「ひまわり、ですね」
「いや、そうなんだけど、これうちのじゃないよ」
店長の話に頭が混乱する。
まだ熱があるせいもあって頭がまともに回らないのだ。
それでも店長が'ほら！'と言って店のひまわりと一本ずつ持って目の前に差し出すから
「確かに、違いますね」
やっと理解して納得した。
店の向日葵はオーソドックスな黄色だがもう1本は白い向日葵だ。
よく見なくてもこんなに色が違うのに分からないなんて、よっぽど熱に浮かされているらしい。
「そのパーカーの人が持って来たんじゃない？」
店長が私に白い方の向日葵を差し出すから、長すぎる袖から手を出して受け取る。
「…こんな事店長に言うのもあれですけど、寝ちゃってて覚えてなくて…」
「まったく…体調が悪いなら無理して開けることないの、今日はもう家に帰って」
「いやでもそれじゃお店が」
「今日はもうこの天気だし体調もあるし、いいから帰る！私も子供旦那に任せてるから帰らないと」
店長が"この天気"と言って指差した外は激しくはないものの、まだ雨が降り続いていた。
店長が来てくれたおかげで私はだいぶ早く家に帰ることが出来た。
申し訳ないと思いつつも、早々に布団に横になると有難いという気持ちが勝った。
"返さなくていいから"
目を瞑って眠りかけた時に夢の断片を急に思い出して目を開けた。
それから上半身を起こして壁に掛けた"誰かのパーカー"を目にする。
「…ひまわりじゃなくて、パーカーを返さなくていいって事…？」
解決の糸口が見えない力のない独り言が空中に消える。
私が見たのは、聞いたのは、夢の事じゃない？
ベッドサイドに置いた花瓶には白い向日葵があって、今度はそれと目が合う。
普通に考えたらどちらも気味が悪いとなりそうなものが、不思議と微塵もそう感じない。
それにパーカーから微かに香る匂い。
どこで嗅いだ匂いだっけ。
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年3月1日 21時
