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あの時受け取った向日葵を今の私が隣で見ていたなら、それを押し花にして持っていろと言いたい。
何故ってあの時以来向日葵を貰った事がないからだ。
でもそれはジュンソには言わないでおく。
暫く冷やかされそうだから。
「明日は休みだよね?」
店のガラス戸に鍵をかけた後、シャッターを下ろす。
「そうです、あ、でももしなんか力仕事あれば電話してくれれば来ますんで、連絡下さい」
「ありがと、でも明日は特に何もないから、彼女とのデートでも楽しんで」
'そうします'と勢いよくお辞儀をしたジュンソとお疲れ様を交わして別れた。
本当に頼もしいアルバイト生だと縦長の後ろ姿を見て思った。
先の通り、明日は私一人での仕事だ。
つまらないと思う反面久しぶりにのんびり仕事が出来そうだ。
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「嘘でしょ…」
ベッドの上で青ざめている状態なのが夢であってほしい。
だがたった今出た自分のその一言は確実に自分の耳で聞こえたし、手にしている体温計の感触もある。
何で急に?
そればかりがループしてもう3回は測り直してみたけれど、結果は全部同じ。
「38.9…」
いやむしろ2回目より3回目の方が少し上がった。
起き抜けえらく身体が怠いし寒いしと思って嫌な予感がしたと思ったら、これだ。
でも休めない。
今は私が店長代理だが、あくまでも"店長代理"だからだ。
一瞬ジュンソの昨日の言葉が過って電話をかけようと思ったが、やめた。
今日は彼女とデートだって、私の体調管理に巻き込むわけにはいかない。
「…起きないと」
視界が回ったり頭が痛かったりはない。
他の風邪の症状もない。
だから自分を奮い立たせてベッドから出る。
"病は気から"というし。
案外仕事に行っちゃえば熱の事など忘れてどうにかなっちゃったりするもんだ。
何度も"大丈夫"と言い聞かせて仕事に行く準備。
それがいつもの半分くらいのスピードしか出ないのは、大目に見るしかない。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時