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「店長ーちょっといいですかー?」
「あのね、私は店長じゃないって何回も言ってるでしょ」
背中を軽く拳で殴ると大袈裟に身体を捩って見せる長身の細身のアルバイトのジュンソ。
5月末に入ったばかりだが、男手なのもあってかなり助かっている。
「俺、本当の店長が戻って来たらクビになるんですかね…」
これがバイト中のジュンソの口癖である。
5月末から約1ヶ月。
もう軽く50回は聞いたかもしれない。
だからまた私も同じ返事を返すのみ。
「クビになりたくなかったら私の事をいい加減"Aさん"って呼びなさいよ」
「だって店長の方が楽なんですよ、あ、じゃあ代理?とかどうですか?」
「だからそれもやだって言ってんでしょ、なんで仕事は出来るのにそこだけ頑ななんだか…」
'まったく'と溢しながらも満更ではないやり取りだ。
店長が産休に入ってから、私一人で店を切り盛りする予定だったのだけれど。
店長が一人では大変だろうからと、知らない間にバイトを雇っていたのだ。
まさか女じゃなく男だと聞いた時には大丈夫か?と思ったけれど、そんな心配を他所にジュンソとはだいぶ気が合う。
なんていうか弟?甥?そんな感じ。
「あ、そういえばこないだ持って帰った花、彼女めちゃくちゃ喜んでくれたんですよ!」
「本当?良かったじゃん、教えた通りちゃんと手入れしてるんでしょうね?」
「勿論!いつも彼女が見てるんで、そういう意味でも手入れは怠れませんよ」
調子の良い奴だ。
でもこの裏表がなくて馬鹿正直な所が良い。
仕事がやり易い。
店長が出産して、ジュンソが入って来て、気付けばもう6月も終わろうとしている。
時々汗が滲む様な日もちらほらあるくらい。
もうすぐそこまで夏の気配がする。
"絶対覚えてるからね、約束ね"
まただ。
こうやってふとジミンの事を思い出す瞬間がある。
数ヶ月で消せる程、物分かりの良い頭ではなかったらしい。
でも大丈夫。
もうあれ以来ジミンとは一度も会ってないし連絡も来ていない、配達にも行ってない。
勿論、ナリさんともだ。
大丈夫。
傷には瘡蓋が出来るもの。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時