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「A、ちょっと待って」
ジミンの手が私の腕を掴んだのだけれど、距離が近くなって薔薇の匂いが強くなって反射的に振り払った。
私の手からゴミの袋がフローリングに落ちて転がった。
「…もう連絡しないで下さい、本当に」
しゃがんでゴミに手を伸ばして出た言葉はそれだった。
「なんで？」
「なんでって、それはジミンさんがよく分かってるんじゃないですか、ナリさんに白い薔薇貰って」
「白い薔薇…？なんでそれ…」
「ナリさんがあの薔薇買ったの私の店ですよ？ジミンさんにあげたいって、もう分かりますよね？」
本当に久しぶりにジミンの顔を見た気がした。
困惑の表情を浮かべてあの気の抜けた様なふわっとした笑顔とは程遠いもの。
しかも私の質問に答えないまま、ただ唇を閉じて思い悩むように何処かを見つめていた。
「A、それ…」
何を言おうと言うのかこれ以上。
「もういいです、やめて下さい」
今日はジミンの言葉を遮ってばかりだ。
でもジミンから聞きたい言葉なんてのもないし、本当にこれ以上はただ時間の無駄で。
「すみません、私が話す事じゃないですね」
自分で言ってて軽く笑えた。
その通り過ぎて笑えたのだ。
全く関係ない人間が客に振り回されて勝手に苛立って、こんなのただの八つ当たりのようだ。
ただの花屋が、部外者が。
花屋なのに花のない私が。
「A待って」
玄関で靴を履く私をまだ引き止めようとするジミンの往生際の悪さは尊敬する。
「、じゃあ失礼します」
「待ってって！」
手首を痛いくらいの力で掴まれた。
ジミンの手が男の手だ。
「、俺が何言っても信じられない？」
「信じるも何も…」
「じゃあなんでそんなに怒ってるのか教えてよ」
ジミンの声が低く冷静で少し強い。
そこにその質問が相まって、息を呑んだ。
ごくりの自分の喉が鳴った。
苛々している理由。
そんなのーーー
振り向くとジミンとまともに目が合った。
「、ジミンさんの事が、嫌いだからですよ」
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年3月1日 21時
