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気は向かないもののいつも通りに仕事をするしかない。
だからいつも通りに何度も通った洗練されたデザインのエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。
そのエレベーターから降りてすぐだ。
「あ」
そう声を出したのは多分お互いだったと思う。
だからお互い'こんにちは'って言葉も被った。
「それ、ジミニの家に？」
ナリさんが私の手元のライラックに目を向けて。
伏目になると長い睫毛が更に映える。
「そうです、今日配達の依頼があって」
「あ！そういえばこないだの薔薇、ジミニに無事渡せました、ありがとうございました」
花が咲いたような笑顔を浮かべたナリの髪の揺れた髪からまた薔薇の香りがした。
"無事"渡せた。
それは良かった。
「…少しは力になれたみたいで、安心しました」
「本当に大成功で、喜んで貰ってくれました」
ナリさんの頬が少し色付く。
その表情と言葉の端々に気が重くなっていく。
何故、私の気が重くならなければならないのか？
似合ってる二人が上手くいったのに。
失礼男なパクジミンでもこんな美人と付き合えるくらいの器量が良いという事なのだろうか。
「、じゃあ、私はこれで」
ジミンと同じくらい少し厚く形の良い唇で柔らかく微笑んだナリさんが丁寧に会釈をしてくれて
「その花、
すれ違いざまにそう残した。
言われなくても…
私の仕事だからそうするつもりだ。
むしろそれが私のやる事だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
今までが少しおかしかっただけ。
「失礼します」
ジミンの家のドアを開けていつも通りの覇気のない一言が靴のない玄関に落ちる。
それのすぐ後にバタバタと奥から足音が聞こえて
「なんで連絡してくれないんだよー！」
黒い平行眉の間に皺を寄せたジミンが騒がしくやって来た。
その勢いで風がふわっと舞ってジミンの香水、ではなく薔薇の匂いが。
「店長に連絡すればいい事ですから」
ジミンの横を通り抜けてリビングに向かう。
ああ、やだな。
なんで？いつから？
私はこんなに苛々してるんだろう。
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年3月1日 21時
