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花屋の朝は早い。
久しぶりに店を開けるからハイになっていたのか微塵も眠いと思わず起きられた。
一人で全てやらなきゃいけないとなると少し大変だなとは思うけれど、この二日間は一人で行う為のペースを掴む良い機会だ。
予行練習的な。
今日も快晴で良かった。
店内のBGMを流して買って来たコーヒーをカウンターの隅に置けば形になる。
「、さ…仕事しよ」
着慣れたスウェットの袖を捲し上げて色とりどりの花達に向き合う時間の始まりだ。
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朝のうちに買っておいた昼食用のベーグルはレンジで温めたら本来の美味しさを取り戻したようだった。
それからコーヒー片手にパソコン作業に向き合う。
「こんにちは」
声を掛けられて慌ててベーグルを飲み込む。
「あ、こんにちは」
赤い長い髪を耳に掛けつつ上品な笑顔を浮かべてそこにいたのはナリさんだった。
春らしい淡い黄色のカーディガンを着ている。
美人は何でも似合う。
椅子から立ち上がった私にナリさんが'あの'と、透明感のある瞳を私に向けている。
「ジミニの家に、花届けてる方、ですよね?」
「…そうです、あ、でも今ちょっと配達できない状態ですけど」
'そうなんですね'とナリさんは小さく何回も頷いた。
だから私もそれに合わせて頷いてみる、何となく。
ほんの数秒だが二人とも押し黙る時間が過ぎて
「あの、私、ジミニと
頬を淡い桜色に染めたナリさんの言葉がその沈黙を破った。
"また"って。
どう見ても知り合いに見えなかったのはそういう事だったのだ。
納得だし腑に落ちた。
それから心の何処かが静かに引いていく感じ。
「…それなら、やっぱりこないだみたいに薔薇がいいと思いますよ、本数で伝えたい花言葉も変わりますし」
フラワーキーパーの白い薔薇を指差す。
「3本だと"愛してる"で、12本だと"私と付き合って下さい"と、それから24本だと"いつもあなたを想っています"になります」
花言葉を一つ一つ紡ぐ間、私の頭の中にはジミンのあれこれがポツポツと浮かんでは消えた。
ナリさんからまた白い薔薇を貰ったジミンは、あんな風に目を細めて口角を綺麗に上げて微笑むのだろうか。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時