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広い。
とにかく広い。
花を抱えたままとりあえずドアが開いてる部屋を覗く。
何故ならリビングとキッチンが玄関からすぐそこの私の家とは大違いだからだ。
「ここか…」
何分かかったは大袈裟かもしれないけれど、リビングとキッチンを見つけた時の安堵感にそう漏らす程には広い。
花を一度ダイニングテーブルの上に置いて、落ち着かない空間だがひと息吐く。
まるで生活感がない家だ。
でも誰も住んでいない訳ではないんだと、目に映る景色で感じ取れる。
向こうに見える大きなソファの上のタオルの様な物。
その前のテーブルにはリモコンがいくつか。
そしてシンクに置きっぱなしのグラス。
自然と目についたそれらを当然そのまま放置して、花瓶を探す。
「あっ、た」
広いキッチンの隅に見つけた。
見た感じだけれど高そうな花瓶なんだろうななんて思うと手が慎重になる。
大して重くないがしっかり両手で抱えた。
とりあえず最初だからシンプルにと思って花は白いカラーだけにした。
生活感のないシンプルなこの家によく合う。
持って来た花鋏をバッグから出して茎の長さを整える。
花瓶に水を入れる。
そこにカラーを入れる。
「よし」
「誰？」
私の物じゃない声に勢いよく振り向く。
そりゃあもう驚いて。
開け広げてあるリビングのドアの所に男が一人。
上下ゆるゆるの部屋着姿で髪は割と乱れている。
さっきの声の張本人。
そして多分、家主だ。
急に悪い事をしてる気持ちに襲われ硬直したままの私とふらふらと無言でこちらに来る男。
「あ、花屋の？」
目の前で止まると白いカラーの花瓶と私を見て言った。
「、そう、です」
「あぁーそっか、俺この時間に頼んで…あー忘れてた」
'ごめんね'と笑った男に対して私は全く笑える状況ではない。
一瞬でも"終わった"と思ったのだから。
悪い事など何もしていなくても、だ。
家主はいないっていう情報は誤報だったのか。
じゃなければ目の前で冷蔵庫を勝手に開けて水を取り出した男の説明がつかない。
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年3月1日 21時
