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「チューリップだ」
私の隣に立つパクジミンが言った。
ダイニングテーブルの上に置かれたそれは正にチューリップの蕾だ。
よく分かったなと多少感心しつつもそれは言わない。
それに花瓶を用意するより先にやる事がある。
「悪いんですけど、水切りしたいんでこのチューリップが入るくらいのバケツか洗面器あります?」
「え?あー…あるある、ちょっと待ってて」
手間をかけさせて申し訳ないと思う反面、長持ちさせるならなるべくまともな手順を踏みたいという花屋の
パクジミンの足音はとても軽い。
その足音が近付いて来て見れば洗面器を手にしていた。
「これで大丈夫そう?」
「充分です、ありがとうございます」
割と大きめの白い洗面器。
それにシンクでなるべく多めに水を張った後でダイニングテーブルの上に置く。
洗面器を持って来る事を終えたパクジミンはずっと私の隣から動きがないらしい。
「あの…私やるんで、別に他の事してて構いませんよ?」
「え?やる事ないから見てるよ」
そう言われてしまったら何も言えない。
仕方なくこのまま続けるしかないようだ。
人に見られながらの作業は慣れているのだけれど、店ではない空間でのそれはちょっと気まずい。
しかも何の会話もないままの状態で。
だから一本目のチューリップの茎を洗面器の水に浸した辺りから仕方なく喋る事にする。
「チューリップはこうやって水の中で切ると吸水が良くなるんです、切るのはほんの少しでいいんですけどね」
水中で切ると茎を切った音がしない。
「長持ちさせる為に?」
「勿論、チューリップは水分補給が大事なので。でも他の花と同じように水を綺麗に保つ事となるべく涼しい所に置いて下さい。まぁここでも大丈夫だと思いますけどね」
「あとさ、なんで咲いてるのじゃないの?」
「え?そんな分かりやすい事わざわざ聞きます?ここから少しずつ色が変わって満開になるまで見れるからですよ、多分2日くらいすれば色変わってきますよ、楽しみじゃないですか」
話終わる頃には5本全ての水切りが終わった。
予め用意した花瓶にそれを挿せば蕾の揃ったチューリップの切り花が完成した。
パクジミンがどんな顔をしている隣に立っているかよりもチューリップの蕾に釘付けだった。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時