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「え?そういう事になったの?」
'あらまぁ'と長い睫毛をバサバサさせて驚く顔を作った店長のそれは誰が見てもわざとらしいやつで。
「今本当はどんな事考えてます?」
「Aとジミンさんに何か起きるかもしれないなって思ってる」
「起きませんからね何も」
案の定の返事にまたピシャリと返しながらバケツの水を一気に流しにぶち撒けた。
それなりの年齢の男女がそこにいるからって必ず何が起きる訳じゃない事は店長も知ってるはずだ。
ましてや相手があれ。
それは芸能人っていう意味ではなくて、失礼男という意味でだ。
「新しい恋するのも良いと思うんだけど」
鉢植えの手入れをする店長のその一言で薄々そんな事じゃないかと感じていた事が予想通りに変わる。
「今はまだそんな気ないですよ」
蛇口から出続ける水がバケツの中に順調に溜まっていく。
「あ、未練があるとかじゃないですよ?ただ単にそんな気が起きないだけです」
念の為付け足した。
未練はない、全く。
蛇口を締めると激しい水音が溜まって店内の静かなBGMがよく聞こえるようになって、店長の'そっか'という残念そうな返事もよく聞こえた。
「Aはそう思っててもジミンさんはどうなるか分かんないよね」
なのに瞬時に目を輝かせてまた。
もう'はいはい'と遇らう私はバケツの水を運んで花の水を交換するという恋愛より重要な事に勤しむ。
「すみません」
フラワーキーパーの扉の前でお客さんに声を掛けられて振り向く。
制服姿の女の子だ。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「あの…フリージアっていう花、どれですか?」
「フリージアはこれで黄色と白の二色があります」
戸惑っていた表情からフリージアを見つけるとパッと目を輝かせて'これ下さい'と黄色のフリージアを指差した。
フリージアだけ3、4本。
「贈り物ですか?」
そうではなさそうだけれども一応聞がなければならない。
学生は案の定首を横に張ったのだけれど、少しバツが悪そうに'実は'と。
「バンタンのジミニが家にフリージアを置いてるってこないだテレビで言ってて、同じの欲しかったんです」
今度は恋する乙女の表情でそう言った。
"バンタンのジミニ"というワードにほんの一瞬だけ困惑したし、パクジミンが公共の電波で花の話をしてる事も意外だった。
ただ、そんなパクジミンのおかげで花を知ってわざわざ買いに来た人がいる目の前の現実。
悔しいけれど有難い現実だ。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年3月1日 21時