背中ばかりを見たくない (ページ6)

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走れチューブリンページ6

東大の構内は広い。
授業がバラバラの建物で行われることはさほど無いにしろ、文京区にありながら南北に1.5kmもの長さがある。

(やべー、遅刻)

そういうわけで、川上が遅刻するのは仕方ないことなのかもしれなかった。

赤門から安田講堂までは結構距離があり、更にその奥の御殿下体育館まで行くのには10分ほどかかるのだ。
体育館の中にはプールやジムの施設があり、今日はそこで伊沢さんと筋トレの約束があるのだった。

正直言うとあまり運動したい気分ではない。以前一緒に行ったときだって、ベンチプレスとスクワットを1、2セットやっただけで、あとはゆっくりトレッドミルで時間を潰した。
筋トレで追い込む感覚が「気持ち良い」と言う人の気分はよくわからない。

三四郎池の横を抜け、安田講堂の近くに出ると、制服姿の集団が見えた。
遠足をするような時期でもないし、東大合格者にしては幼くて高3に見えない。どこかの進学校がわざわざ東大だけ見学に来てるんだろうか。

年齢を推し量るべく集団を見ていたせいか、その中の一人の女子と目が合った。

「あっ」

声は聞こえなかったが、きっとその女子生徒は確かに「あっ」と言ったのだろう。口の動きと、それに続く動作からそう推測できた。
その女子は隣の友人の肩を力強く叩くと、こちらをチラチラ伺いながら何やら耳打ちした。
友人のほうがこちらを振り向き、また目が合う。目が合った女子生徒は途端に破顔し、声を掛けた側の女子と手を取り合った。

俺を知っているのか。

女子生徒たちは数秒の躊躇いのあと、意を決して川上の所へやってきた。
「あのっ、川上さんですか」
「いつも動画見てます！えっと、クイズノックの…」
「すっごいファンで、写真一緒に撮ってもいいですか！」
目の前の女子二人がハイテンションになっている。なぜか急に嫌な気持ちになった。

「ごめん、急いでるんで…」

それだけ言うと、二人はスッと引き下がった。
すぐ歩き出したので、彼女らが背中の向こうでどんな表情をしたかはわからなかった。