仕事 ページ3
｢A｣
｢なんですか、夏油サマ｣
｢菜々子達がちゃんと課題をやっているか、見てきてくれないかな｣
｢分かりました｣
これじゃあまるでメイドだ。でも上層部に報告できることは多くなったからいいか。
昨日の乱入で菜々子ちゃんと美々子ちゃんが言っていた"家族"というのは、簡単に言ってしまえば"仲間"という意味合いのようだ。私は夏油一派に加わるつもりは毛頭無いので丁重にお断りしたが、術師だからという理由で夏油の傍に置かれることは確定らしい。しかしこれによって今までよりも得られる情報が多くなり、何となく、若干、本当に僅かに、上層部が喜んでいる、と、思う。
二人の部屋の扉をノックすると、バタバタと慌ただしい音がした後、返事が返ってきた。扉を開けると二人は勉強机に向かっており、それぞれ英語と数学の課題に取り組んでいるフリをしているようだ。
｢白紙だけど｣
｢さ、さっきまで歴史の予習してたから！｣
｢だからあんなにバタバタしてたんだ？｣
｢そう！そうだよ！別にサボってたとかじゃないから！｣
｢美々子ちゃんはどう？｣
｢…数学、今やっているところ難しくて｣
｢あ〜、私もそこ苦手｣
｢今度一緒に夏油様に教えてもらいに行こう、Aちゃん｣
｢……うん｣
夏油って頭が良いのだろうか。悪くはなさそうな顔をしているが、教祖をしているくらいだから指導力はあるのだろうか。事件を起こさなければ、高専の教師になっていたのかもしれない。
菜々子ちゃんと美々子ちゃんは、私にすぐに心を開いてくれた。二人が夏油に心酔しているところは理解し難いが、それ以外のことは話が合うことも多くなかなか新鮮な気持ちだ。私も高専に行けていたら、是非この二人と一緒に通いたい。
｢Aちゃんは学校行ってないの？｣
｢うん。私はここに通うのが仕事だから。仕事の代わりに勉強は無し｣
｢ここに通う仕事？Aちゃんも夏油様が好きなの？｣
｢いや、好きではないかな。あの、うん。二人ほどはね｣
罪悪感が勝って、無関心だとは言えなかった。"好きの反対は無関心"と最初に言った人は、私と趣味が合うかもしれない。
震えたスマホの画面を見ると、菜々子ちゃん達の代わりにマッサージをして欲しいという夏油サマからのゼイタクなお願いが送りつけられていた。
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作者名：Rose | 作成日時：2022年9月18日 11時
