知らない彼女-9 ページ41
「けどさ…Aちゃんと仲良くなって後悔もしてるんだ。だって…Aちゃんがどれだけ沖田のこと大好きかが目に見えて分かるようになっちゃったから」
「辛いのか…」
「うん」
「そうか」
俺は、相変わらず下手な相槌しか打てないでいた。
意外にも案外素直に"辛い"と俺に打ち明けてくれた千石に、気の利いた言葉の一つさえも掛けてやることができない。
「今日はAちゃんの護衛のつもりで来たくせに、さっきのナンパもろくにAちゃんのこと守ってあげられなくてさ。女の私じゃAちゃんのこと守れないんだって痛感した。そのくせ、やっぱり沖田にAちゃん独り占めされると悔しくて。汚いよね…」
「そんなことはない。あんたの啖呵は迫力があった。Aも千石もどう転んでも性別は女だ。力の面でもできないことがあるのは当たり前だ」
「…うん」
「無理をするな。俺はさっきあんたにそう言ったはずだが」
「…うん」
俺のその言葉で、千石の声が少し上擦った気がした。
そんな千石を見ていると、どうしてだか放っておけないと思った。
慰めの言葉など言えない、そう思っていたはずなのに、俺の口からはそれに近いような言葉が勝手に出て来てしまう。
「千石は汚くなどない。あんたもさっき言っていたように、Aは誰にも気が付かれないところで努力しているようなやつだ。あんたは、その誰にも気付かれないようなAの努力に気が付くことができたうちの一人だろう。綺麗な心を持っている証だと俺は思う」
「あ、りが…と」
三人が戻って来るまでの間だ。
それまでは、あんたの顔を見ないでおく。
気が付かないふりをしておく。
だから、三人が戻って来るそのときまでに、どうかいつもの明るいあんたに戻っていて欲しい。
俺はいつかと同じように、綺麗な心を持った者の涙に心が掻き乱されそうになっていた。
to be continued.
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斎藤ようこちゃん(プロフ) - 応援してます (2020年12月26日 20時) (レス) id: e53507092f (このIDを非表示/違反報告)
水城(プロフ) - 斎藤ようこちゃんさん» こちらにもコメントくださりありがとうございます。励みになります。 (2020年12月26日 20時) (レス) id: 61fd283962 (このIDを非表示/違反報告)
斎藤ようこちゃん(プロフ) - 素敵です。 (2020年12月26日 13時) (レス) id: e53507092f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水城 | 作成日時:2020年12月20日 0時