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七件目 ページ7

会社帰りの綺麗な夕陽だった。近頃残業続きで――大きな企画を任されていてなので嬉しい残業ではあった――かなり疲れていた。上司の気遣いで得た久しぶりの定時帰宅に喜びつつ家に帰って寝ようと足を急いでいた中見た夕陽は綺麗だった。写真に写る夕陽は本物とはまた味わいがあって良いのだ。そう思いつつ一番見晴らしが良かった橋の上で携帯を取り出し写真を撮ろうとした。刹那、
「あ……」見事に手が滑り川の中に携帯が落ちていった。ぽちゃんと音が響くかと思えば不幸中の幸いで川の流れの中から頭を出す岩の上に落ち、水没は免れたのである。
一安心したいところなのだが取引先との連絡先が詰まったそれを拾いたいのはやまやまなのだがどうしたものだか。携帯を見つめ考える。
特にいい策も思いつかず溜息をついた時だった。後ろから、
「もしもし、お嬢さん」急にそんな声を掛けられ振り向いて固まった。まさかこんな美男子が声を掛けてくるなんて思いもしなかったのだ。そんな私の心の内を知ってか知らないでか、
「世を儚むのかい?もし良ければ私と「え?」……え?」え、じゃないなんでそんな心外な顔をするのだ、その顔をしたいのは私なんだが。と、今の自分の状況を考えふと思い当たった。橋の上で欄干から身を乗り出し深刻な表情で一点を見つめているかと思えば深い溜息をつく。死にたい人のそれではないか。勿論死にたい訳でも無く携帯を落としただけなのにだ。
「勘違いさせてしまったようですがあそこに携帯を落としてしまって……」そう気付いてしまうと自然と笑いがこみ上げる。相手も私の指差した先にちょこんと乗っている携帯を見つけ同じく笑う。二人でひとしきり笑った後、男は笑い涙を拭いながら、
「私が取ってあげよう、君は少し川辺に降りてこの橋の下に居てくれないか」そう言い少し遠くに見える下へと降りる階段を指差した。言われた通り降りて相変わらず橋の男を見ると欄干に乗って今にも飛び込もうとしているではないか。
「いや、待て……?!」聞こえたか聞こえてないのかニィッと笑い男は川へと飛び込んだ。見たくない一心で目を(つむ)っていたがいつまでも落ちた音はしない。それどころか「早く目を開き給え」等という幻聴までするのだ。……いや、幻聴では無いようだ。三度目で流石に気付き目を開けるとずぶ濡れで川の中に立ち私の携帯を持つ姿があった。

今思えば私はあの時治に心中に誘われていたのか、それはさておきそれが治との出会いであった。

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菁蓮(プロフ) - 更新長らくしてなくて申し訳ないです。受験期で小説を書く余裕が皆無なのが原因です。来年の春を気長にお待ちいただけると幸いです…… (2022年9月18日 16時) (レス) @page15 id: 888805e83c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:菁蓮 | 作成日時:2020年10月22日 21時

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