太宰治からのメール通知が止まらない【文スト】【太宰治】【束縛】 (ページ13)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:29,575 hit

十三件目ページ13

「はぁ」有給消化をしなさいと言われるこの会社はホワイト企業だ。有休を取って休みな私の予定を見て今日は休むと言っていた治は火急の依頼だとかで出社してしまった。独りリビングに残された私は昨日の事を思い出してはじくじくと病むというごく当たり前の負の循環にハマっているのだ。考える暇があれば悩んでしまうのは自然の摂理だと聞く。

――久しぶりに治にお弁当でも作って持っていこうか。

　何か別の事をしようとそう思いつけば後は気楽で、卵焼きを作りウインナーを炒め蟹を入れたいとこだが生憎常備はしていないのでカニカマを入れその他の具材も飾り付ける。おにぎりを握り具材を詰めた弁当箱と一緒に風呂敷にくるみ治の会社、つまり探偵社へと向かう。

「風格があるね……」シンプルに社名が書かれたプレートがついた扉を前にノックを躊躇っていると後ろから、
「依頼の方ですか？」そう少年と言ってもおかしくないであろう男性に声を掛けられる。
「いえ、おさ……太宰さんに用事があるんですよ……太宰さんはいらっしゃいますか？」
　その話が中に聞こえたのか扉が開き出てきた女性が私を見て一言。
「おやアンタが太宰の嫁かい」
　きっとこの少年が敦君という子で女性の方は与謝野先生なのだろう。太宰が時たま仕事について話す時に薄ぼんやりと描いていた人物像がはっきりとする。
「嫁……？」確かに結婚するとは思いますけど嫁は気が早いです。そう慌てて訂正すると、「太宰は嫁って言ってたンだけどねェ」そう苦笑いされる。

　しばらく話してから――殆どが治の愚痴だったが――治は居なさそうなのでお弁当を渡して欲しいと言えば、
「弁当？」
「今日は休むって言ってましたよ？」
「え？来てないんですか？」
「来てないです」

　予想外の反応に飲み込みに時間がかかっている私に大体を察した顔をした与謝野先生が
「若し良かったらそれとなく太宰に聞こうかい？」と提案してくれたがやんわりと断って家に帰った。怖いのだ、……どうして私に隠れて外出したかを考えるときっとそんなことは無いだろうけど、もしがあれば。もし他の人と、と考えると気が付けば涙が零れていて。

　その夜何ともない顔をして家に帰って来た治に私は強張った笑顔しか返すことが出来なかった。