十一件目 ページ11
「A、君が惜しくて言うんじゃない、危ないから行くな」私の肩に手を掛け太宰が言う。いっそ惜しいからと言ってくれよこの卑怯者。私の為じゃなくてお前の為に言ってくれよ。この頭のよく回るキレ者は私の胸の内なんてきっと分からないのだろう。いや分かりたくないのかもしれない。
「そう、それで?」仮にも男の太宰の力に敵う訳なく家の中に連れ戻される。良かったね力があってと皮肉を呟く。
「良かったよ本当。……危ないのだよ?夜の街は。頼むから行かないでくれ」靴を脱がずにドアにもたれ掛かる私の目を覗きこんで必死の形相で縋り付く太宰に少し笑みがこぼれる。滑稽なのかそれとも止めてくれるのが嬉しいのか。もう何も分からない。
「危ないのはよくわかった、忠告ありがとう」
「なら「でも太宰、ちょっと外の空気が吸いたくてね」
「彼氏の言う事を聞けないのかい?」
「太宰だろう?君に私にとやかく言う権利は無いよ」
すぅっ、と太宰が息を吸った。
「だ、か、ら、言う事を聞けと言っているのだよ、危ないと何度も「聞かなかったらどうするの?」深夜だからか少し抑えた声で怒鳴ろうとする太宰の声を遮りさらに問う。
「聞かなかったらどうしたいの?別れるって言うのかな?」
「ねぇA。早とちりは辞めてくれよ」
「じゃあどうするの」駄目だ、落ち着かないと。傷つけるつもりは無いのにどんどんと言葉の刃を放つ口は自分の物ではないかのようだ。
「さっきのは悪かった」太宰が謝罪を口にした。なんでだ、私が悪いみたいではないか。
「だから少し落ち着いてくれ給え……冷静に話をしよう」いつの間にか私を抱き締め逃げ道を絶って太宰が言う。第一卑怯なのだ、いつも。いつも。
「何を話すの?」その抱擁で落ち着いてしまう私が奇妙なほど悔しかった。
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菁蓮(プロフ) - 更新長らくしてなくて申し訳ないです。受験期で小説を書く余裕が皆無なのが原因です。来年の春を気長にお待ちいただけると幸いです…… (2022年9月18日 16時) (レス) @page15 id: 888805e83c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菁蓮 | 作成日時:2020年10月22日 21時