【時計に未来を刻ませる】 ページ2
｢姫様、寝る前には勉学をしてください。
今度腕の良い教師を雇いますからな｣
姫の面倒をよく見てくれる執事がそう親切心から言ってくれる。
だが、その度に姫はこう答えるのだ。｢1人でやりたいから教師なんかいらないわ｣と。
｢1人の方が捗るから！じゃあ、お休みなさい｣
姫が一方的にそう話を終わらせて部屋の扉を閉めてしまえば、執事はそれ以上何も言えなかった。
もちろん、1人の方が捗るなんて方便である。
時計の針が真上を指すのを、今か今かと待ちわびる。
｢(指で針を動かして、時間を速めてしまいたい)｣――姫は溜め息を吐きながら、アンティークな時計の針を指で強引に動かして0時にさせた。
そしてだんだん虚しくなってきて、時間を元に戻そうとしたが――すっかり正しい時刻が解らなくなっていた。
姫は溜め息をまた吐く。
｢姫様、時計は過去を刻めないのです｣
突然、背後から聞きなれた声が聞こえて――窓を振り返って確認してみた。
窓の縁に手を掛け、片膝を立てるようにして…騎士は夜を連れてきていたのだ。
｢騎士様！！｣
姫の声を聞き、騎士はひらりと部屋に入った。まるで魔法使いのようね！と姫が楽しげに笑う。
｢時計の針を速めてはいけません。
決まった時間に針は進むのですから、乱しては駄目ですよ｣
｢あっ、でも…なんでいつもより早くに来てくださったの？｣
姫が不思議そうに騎士に聞いてみた。
騎士は小さく低く｢ふふふっ｣と笑うと、｢姫様が時間を速めたからです｣と曖昧な返事返す。
｢絶対うそね｣
｢嘘ではありません｣
姫は｢ありえないもの｣と首を横に振るが、騎士も引かない。
｢ありえない何て事は、ありません。
私は鎧の妖怪ですが、こうして貴方と話が出来ます｣
そして優しく姫の艷かな髪を、冷たい手で救い上げる。
その時、小手が姫の頬に当たったらしい。姫がくすぐったそうに肩をあげていた。
｢そうね、じゃあそういう事にしておくわ｣
｢ありがとうございます｣
そして姫は思い出したかのように｢あ！｣と声を出すと、高そうな机の引き出しを乱暴に開けた。
騎士が｢物は大事に扱わなくては｣と小さく声を掛けたが、姫にはどこ吹く風である。
｢これ、執事のじいやから貰った教科書｣――姫の手には、勉強には欠かせない本が握られていた。
｢教師を付けられたら、貴方に会える時間が短くなっちゃうかも｣
｢夜に勉強をさせる教師がいるのでしょうか？｣
｢良いから！騎士様が私にお勉強を教えになって！｣
騎士はそんな姫を見て、｢仕方がありません｣と首を縦に振った。
｢月が、夜空で輝くまでですよ？｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
猫夜桜((シラキ(プロフ) - 最高！！！ (2018年8月26日 1時) (
レス) id: 4588ab3ba5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かぁびぃ(駄作者) | 作成日時：2017年8月30日 3時
