今日から愉しい誘拐生活【夏油傑】

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　なんでだっけかな。なんでこんなことなってんのかな。
　状況把握、無理。よっしゃ諦めよ。


だって有名な監督も言ってた。
諦めたら試合終了だって。
だから、私は諦めようと思う。

それで終われる試合もあるってことでしょ？

今の状況とかね。





「久し振りだね。元気にしてたかい？」





恋人が私に逢いに来た件。

正確には違う。

(人殺しで追われてる)恋人が私に会いに来た件。
なんてドッキドキ。

「元気、久しぶり」と返せた私の胆力を全校朝会で表彰して欲しい。





「こんばんわ。傑、いい天気ね」

「雨なのに？」

「攫うのに、都合の“いい”天気」

「なら良い天気だね」





雨降りの真夜中。コンコン、と窓からノックが聞こえて「出前ですか」と出た私は寝ぼけていたんだと思う。
だって此処三階。
あと窓。


ガラリと開けて半目開きで認識したのは、重い雨音と、呪霊に乗る濡れ鼠な恋人。

元、と付けるべきかは分からないが。





「攫って欲しい？」

「や」

「えっ」

「逆になんで良いと思ったの。帰って。此処は乙女の部屋」

「恋人だろ」





彼は恋人だと認識しているらしい。ふぅん、そう。

嬉しく無い。
別に嬉しくない。





「元、ね」

「元？別れてないだろ」

「人殺したくせに。冗談はよして」

「冗談だと思う？」

「思いたいってところ」





うん、割と本気で冗談抜きで嬉しくない。
何が悲しくて教祖みたいな袈裟纏う指名手配の元恋人に攫われないといけないのか。

疑問だね。愚問だね。
今度Google先生に聞いてみよう。





「余裕の無い男は嫌われるって知ってる？」





きっと、夜蛾センセよりアテになるから。




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