第二話「冥府入り」 ページ6
暗い、暗い、暗い。
生暖かい風の淀めく深淵の中、千丈はただひたすらに落ちていた。
上下左右も不確かで、自分が今、人の形を保っているかも怪しく思えてしまう奇怪な感覚に意識が遠退く。
と、不意に背中に強い衝撃が走った。
「ブエッッ!!!」
「グッ…痛…………っ…」
背中に広がる鈍い痛み。しかし、ずっとずっと落ちていたにも関わらず骨が砕ける程の衝撃は無く、6フィート上からマットに落ちる程度の感覚だった。それと同時に鼻腔を満たした淡い花の香り。不可思議な事の数々が千丈をこんがらがせた。
「………此処は……………」
辺りを見回せば、色とりどりの花弁が舞い、地面は一帯が花々の絨毯が敷き詰められていた。
と、ふと足元が蠢いた。
「バーカバーカ!!此処は………?じゃねぇよバーカ!!!」
激しい叱咤が千丈の耳をつんざく。見れば齢19程の青年を自分が背中から下敷きにしていた。
寝そべっていた彼の腹に直撃したのだろう。
それにしても、あんな高さから落ちた自分が腹にのし掛かって、よくもまあ無事で元気に怒鳴れるものだと、千丈は感心さえした。
「此処の当番に久し振りになれてよぉ!のんびり昼寝出来たのに!人間ごとぎが俺様を下敷きにしやがって!!」
「え?ごめん。………なになに?話が理解できないんだけど」
そう言いながら彼の腹から退き、千丈は下敷きにしてしまったその人物を見た。
「うるせえ!とにかく誠心誠意謝れ!!」
つり目、色素のほとんどないさらさらの短い金髪、不服げに歪めた顔、そして、全く新しい着こなしをした派手な着物。下はすててこか?その腰元には丁度美容師が提げている様なベルトポーチに、小型の拷問器具の様なものが幾つも乱雑に入っていた。
そしてなにより異様さを醸し出していたのは、頭部の角。
真っ白で、白磁の様なその二本の角には、片側だけ菱形の模様が丁寧にペイントされている。
「………変な人…」
「殴んぞコラ」
そういって徐に立ち上がり、いてて…と腹部を擦る目の前の青年……いや、“鬼”と形容するべきか。
鬼はじろじろと、千丈を非難するような視線を向けると共に、訝しげに首を傾げた。
「てめえさぁ、死んで……ねぇよな?」
「え?」
千丈には、その問い掛けの意味が分からなかった。そもそも、自分が此処に落ちてきた理由も理解出来ないままでいた。
そう、確かあの時─────
不思議な力に引っ張られたその後……
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アブラアゲの妖精(プロフ) - ベルモットさん» うわー!!!ありがとうございます〜!!!(ToT)更新滞っていて申し訳ないですす…三年間煮詰めてきたお話なので楽しんで頂けたら幸甚でございますッッッ!!!(*^^*) (2020年9月19日 21時) (レス) id: d5dc16b5cb (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - あなた様の夢小説を読みました。設定や文章が細かくて、世界観に浸りながら読みました。続けを楽しみに待っていますね。 (2020年9月19日 19時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
アブラアゲの妖精(プロフ) - ?みなと?くんは低浮上さん» ピャッッッろんへるガチ勢…!(’-’*)♪うれちいぞ……ッッッありがとう!!! まだ鬼さん達すら出てないもんね…!!!いっぱいみなちゃんの推し出せるよう頑張る〜!!! (2020年8月5日 7時) (レス) id: d5dc16b5cb (このIDを非表示/違反報告)
?みなと?くんは低浮上(プロフ) - なに!?ロンヘルの小説!?ろんへるがち勢のワシ得でしかないね!推し様がたくさんでることを祈る……! (2020年8月4日 23時) (レス) id: c2018e7ed7 (このIDを非表示/違反報告)
アブラアゲの妖精(プロフ) - そりす。さん» ふへへへへへろんへる小説書き始めちゃった……(*^¬^*)挿し絵用のイラストとかも入れてく予定だから、更新お楽しみに…!!! (2020年8月4日 16時) (レス) id: d5dc16b5cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アブラアゲの妖精 | 作成日時:2020年8月4日 16時